2-5

 現実感の無いまま路地に戻り、オアは自分をインターネットに繋ぐ。

 音声データを検索にかけると、古いロックバンドが結果にあがってきた。

『BLUE SALAMANDER』

 それは、オアが初めて触れた音楽であり「感情」を教えてくれた人間だった。

 インターネット上に載っていた彼等の曲を全てダウンロードし、オアは地面に座る。

「みゃぁ」

 脚にすり寄って来る猫を撫でながら、オアは彼等の音楽に聴き入った。

『 否定する権利が君にあるのかい

  僕は僕の好きなものが好きだ

  くだらなくてもバカバカしくても

  僕の大切な 僕の好きなもの   』

 彼等の歌は強くて脆い。激しいサウンドと怒鳴るような声の中に、今にも暗闇へ落ちていきそうな危なっかしさがある。

『 悲しいなぁ つらいなぁ

  心があるから 苦しいなぁ 』

 何曲目かを聴いていて、オアははっとした。

(ココロ……?)

 自分はあくまでヒューマノイドだ。人間のように、心を持つ訳がない。そう否定しようとしても、その単語はまとまらないオアの思考を収束させていく。

(この「苦しい」は、ココロがあるから感じる事だ。ココロが無ければ、感情は生まれない。自分にはきっと、ココロがあるんだ……)

 その発見は、オアを混乱させながらも納得させていた。

(自分にはココロがある。だから、こんなに「つらい」んだ……)

 こんなに「つらい」なら、ココロは無い方が良いだろう。オアは自分の中を探し、ココロをシューティングしようとする。

「?」

 ところが、システム内のどこを探しても、そんな機能は見当たらなかった。

 耳障りな声が、自分のスピーカーから流れる。

「バッテリー残量が少なくなっています。充電してください」

 忘れていた。音楽に夢中で、自分の状態を確認していなかった。

 これは良くない。オアはまた路地から出る。

 しかし、金をかけずに自分を充電できる所が分からない。歩いている内にバッテリー残量は減り、足元がおぼつかなくなってくる。

 人ごみの中、人間にぶつかった。

「すみマせン」

 声も、うまく発する事ができない。

「おい、大丈夫か?」

「はイ。ご心配ナ……」

 充電はそこで、完全に切れた。


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