3-2

 天宮梁は、オアの知っているどの人間とも違っていた。

「お前さん、表情って作れるのか?」

 オアに興味を持ち、いろいろと質問してくるのだ。

「はい。人間のように、自分の思考に合った表情を表出する事ができます」

「それは、お前さん本人にとっては、自然な事なのかね?」

「この場合の『自然』の定義が良く分かりませんが、プログラムされた通りに動きます」

「ふうん……私には、けっこう感情に基づく表出に見えるけどなぁ」

 そして、オアの答えを興味深そうに聞き、時折何かをメモしている。

 不思議に思ったオアは、ある日素直にその疑問をぶつけてみた。

「梁さんは、なぜ自分に興味を持つのですか?」

「ああ」

 梁は軽く頭をかく。

「私は、大学で心理学を教えているんだ。まあ、単なる興味だよ」

「心理学……ココロですか?」

「そうだ。専門は認知心理学になるのかな、多分」

 その答えは、オアにとって朗報だった。心について詳しく知っている人間なら、オアのココロの仕組みも分かるのではないかと思った。

「梁さん」

「何だ?」

「ヒューマノイドにも、ココロはありますか?」

「そうさなぁ……」

 梁は少しの間考える。

「『心』を何と定義するかによるな」

 例えば、と梁は自分の頭を指さす。

「私が今、お前さんを見て『ああ、こいつはヒューマノイドだ』と思ったとしよう。それはまず、私がお前さんを目でもって知覚したって事だ。ここまではいいか?」

「はい」

「で、お前さんの身体に電源ボタンやら充電の口やらを見付けた結果、私は自分の持っている知識と照らし合わせて、ああこいつはヒューマノイドだと、認知する訳だ」

「知覚と認知は違いますか」

「違う。知覚は物事を五感で受け止めるところまでだ。その先、それは何かと判断するのは、認知だな」

「そうですか」

 大学教授だけあって、梁は細かい事を知っている。

「認知機能は、今のところ心の働きの一部と言われているからね。お前さんが私を見て、人間だと判断できるなら、それは心の働きなんじゃねーの」

「なるほど……」

 それはオアにとって興味深い見解だった。新しい視点から、自分の持つココロについて考えるきっかけになり、知的好奇心を呼び起こす経験となった。

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