3-3

「梁さん」

 今夜もオアは、仕事帰りの梁に疑問を投げかける。

「ヒューマノイドは、感情を持つのでしょうか」

「……どうしてそんな事を訊くんだ?」

 オアは少しためらったが、自分がかつて家族に捨てられた事、人間に暴力を振るわれた事、人間の物を盗み「苦しい」思いをした事を梁に伝えた。

「そうか……」

 梁はまた考え込む。

 自分の新しい持ち主が、自分の話を聞き答えてくれる事を、オアは「嬉しい」と思っていた。

「今でこそ、ヒューマノイドの陽子回路が人間の脳に近くなって、感情らしきものを持っているのではないかと、議論され始めてはいるが……」

 しかし、それもここ数年の話だ。

「オア型世代のヒューマノイドに、その機能があるとは思えない。しかし、お前さんは実際に『苦しい』思いをしている、と」

 これは、さすがの梁にとっても難しい問題らしい。

「うーん、単なる個体差なのか……例の事件の事も考えると、オア型特有の現象なのか……」

 梁にも答えが出せないようだった。

 それでもオアは、自分が人間に大切にされていると感じて「嬉し」かった。

「まあ、自分の心のうちは自由だ。お前さんが、自分に感情があると思うなら、それはそれで正しい事なのかもしれんな」

「ココロは自由……」

 その言葉は、オアにとって有難いものだった。

「ところで」

 夕飯を食べながら、梁は訊く。

「お前さんは、その自分を捨てた家族の事をどう思ってるんだ?」

「抽象的な質問ですね」

 そう言いつつ、オアは電子回路を動かす。

「自分にとって、彼等は今でも家族です。クレジットカードの情報は無効化されていますが、生体情報や映像データ、音声データ等は残しています」

「そのデータを捨てる事はできないのか?  忘れちまえば、楽になるんじゃねーの?」

「捨てる……」

 自分が過去に一度やろうとして、どうしてもできなかった事だ。今はどうだろう。

「……できません。彼等のデータは、自分にとって大切な思い出です」

「ふぅん、愛着があるのか。おもしれー」

 何が面白いのか、オアには分からなかった。

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