4-3
翌朝、出勤してきたアヌはすぐさまオアを起こした。
「おはようございます、アヌさん」
「うん、おはようだね」
オアの顔をまっすぐに見て、アヌは真面目な話を始める。
「ねぇ、やっぱり君は、故障してしまったのかね?」
「はい。自分は壊れました。稼働可能時間は、長くてもあと六か月と十二日です」
「そうなんだね……」
アヌは少し考えた後、またオアを見た。
「オア、私は君に、難しい事を訊くね」
「はい」
「君は故障した。持ってあと半年だろうね」
「はい」
「オア、君はどうしたい?」
その問は、オアにとって残酷なものだった。生まれてから今まで、自分の意見を持った事などなかったし、むしろそれを持たないよう、プログラムされていた。
アヌからの言葉は、ヒューマノイドにとって何よりも難しい問いかけだった。
「自分は……」
続けられずに、オアは黙る。
「もう、私の手伝いはしなくて良いね。自分がこの先どうしたいのか、考えなさいね」
アヌの悲しげな笑顔に、オアは何も返せなかった。
その日の昼下がり、オアは大学構内を歩いていた。アヌの研究室で突っ立っていたら、彼女に散歩を勧められたからだ。
自分はどうすべきか。どうしたいのか。そう考えるのは、とても難しい。
並木道を歩いていると、ふと足元の木洩れ日が目に入った。木々に遮られた温かい光が、優しく揺れる。学生の笑い声が耳をかすった。
「……死にたくない」
そう思った。以前、ごみ捨て場で目を覚ました時にも感じた事だ。
ロボット三原則の「自己を守らなければならない」という項目に関係するのだろう。オアにとって、その思いは本能的なものだった。
「死にたくない……!」
晴れた日の優しい風が、オアの頬を撫でて飛んでいった。
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