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ベンチに腰掛け、オアは自分をインターネットに繋いだ。マップを開き、ヒューマノイドの修理を受付けている店を探す。
現在地から近い修理屋をいくつかピックアップし、オア型の修理を依頼するメッセージを送った。
ベンチから立ち上がり、アヌの研究室に戻る。
「おかえりだね。何か考え付いたかね?」
「はい。現在地付近の修理屋に、自分の修理依頼をしました。今は返答待ちです」
「そうなんだね」
しばらく待っていると、オアに返答のメッセージが送られてきた。
それを読んで、オアは「落胆」する。
黙り込んだオアを心配して、アヌは声をかけた。
「どうしたね?」
「自分も知らなかったのですが、オア型の修理は国で禁じられているそうです」
「何でだね?」
「過去に、オア型ヒューマノイドが、人間に危害を加える事件が起きたからです。オア型ヒューマノイドは、国から危険なヒューマノイドであると判断されました」
「ああ、何か聞いた事はあるね……」
オアは電子頭脳を動かす。
これでは、自分の修理は難しいかもしれない。もし修理依頼を受けてくれる人間がいたとしても、その人に迷惑をかける事になってしまう。それに、その人間は国に歯向かう事を分かって、オア型に手を出すはずだ。そんな人間が、自分を適切に修理してくれる善人とも、限らないだろう。
どうやら、自分の修理は諦めなければならないようだった。
「自分は、どうすれば良いのでしょうか?」
「それを私に質問しちゃ駄目なんだね。自分で考えなさいね」
「……はい」
オアはもう一度、散歩に出た。揺れる木洩れ日の中、あてもなく大学内を歩く。
「あら、オア」
聞き慣れた声に顔を上げると、結歌がいた。オアは全身に流れる電流を感じながら、その顔を見る。
「あなたが一人で外にいるなんて、珍しいわね。何かあったの?」
「はい」
オアは素直に現状を話す。結歌は真面目な顔でそれを聞いていた。
「ヒューマノイドに自分の意見を持たせようなんて、先生も難しい事をおっしゃるものだわ……正直、面白いと思うけれどね」
「そうですね」
結歌は、近くにあったベンチに腰掛けるよう、オアを促す。
暖かいベンチに並んで座り、結歌はオアを見る。
「それで、あなたはどうしたいの?」
「自分は……」
しばらく黙った後、オアは口を開いた。
「自分は、結歌さんと一緒にいたいです」
「え……?」
結歌は目を丸くする。
「どういう事?」
「アヌさんに聞きました。これは『恋』です」
「そ、そう……」
「人間の作った様々な物語をインプットして、『恋』は人間を動かす原動力だと、判断しました。もし自分にもそれがあるなら、従ってみたいと考えます」
「そうなのね……」
今度は結歌が黙り込んだ。
「……私とあなたというカップル、世間は認めないわ」
「自分がロボットだから……?」
「ええ」
結歌はうなずき、でも、と言葉を続けた。
「あなたの終わりが来るまで、一緒にいる事はできると思うの」
それを聞いて、オアは「喜んだ」。電気信号がスパークし、回線がショートしそうになる。
「結歌さんは、それで良いのですか?」
「ええ。あなたが死ぬその時まで、一緒にいるわ」
柔らかな日差しがオアを包む。それは彼にとって、初めて自分の意見が言えた瞬間だった。
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