4-2

 ある日、オアがアヌに頼まれて論文を検索していると、彼から警告音が鳴った。

「深刻なエラーが発生しました。深刻なエラーが発生しました。深刻なエラーが……」

 オアは急な事に「驚き」つつ、その音を消す。

「何だろうね?」

 心配顔のアヌが見守る中、オアは自分をスクリーニングする。

「これは……」

 その結果に、オアは戸惑う。

「どうしたんだね?」

「……」

 そのエラーが何を意味するのか、オアには分かっていた。ただその結果、自分が今後どうなるが予測したうえで、呆然としていた。

「オア?」

 反応が無くなったオアの顔を、アヌがのぞき込む。

「アヌさん、自分はどうすれば良いのでしょうか?」

「んん?」

「イドに不具合が生じました。セルフメンテナンス機能を使っても、修復できません」

「そうすると、どうなるんだね?」

 オアは黙る。今まで考えもしなかった現実が、彼に重くのしかかっていた。

「……イドは、自分の根幹を成す部分です。その一部でも壊れれば、自分のシステム全体に関わります」

「つまり?」

「自分は……壊れました。おそらく、もう長くは持たないかと」

「えっ」

 にわかには信じがたい事だった。自分に終わりがあるなんて、オアは考えた事も無かった。

「自分は、どうすれば良いのでしょうか?」

 混乱する回線の中、オアはもう一度アヌに訊く。

「うーん、そうだね……」

 彼女も、困った様子でオアを見やる。

「とりあえず、もう一度スクリーニングしようね。本当に故障なのか、確認しなくちゃね」

「はい」

 その言葉に従い、オアはもう一度自分をスクリーニングする。

「結果は変わりません」

「そうなんだね……」

 アヌは、眉をひそめて肩を落とす。

「でも、どうして急に?」

「経年劣化と、過去の外傷の後遺症と思われます」

 オアは答えた。

「後遺症って、君はヒューマノイドだね。そんな人間みたいな事、起こるかね?」

「過去の外傷で受けたダメージを、経年劣化によって庇いきれなくなったという方が、正しいかもしれません」

「なるほどだね」

 夕日の差し込む研究室で、一体と一人は途方に暮れる。夜が、訪れようとしていた。

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