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そして、その時が来た。
立位を保てなくなったオアは布団に横たわり、自分の最期を待っていた。
「オア、ココロの具合はどう?」
その傍らには結歌が座り、彼に優しく言葉をかける。
「ココロは『穏やか』ナようでス」
発する言葉はぎこちなくなっているが、オアに悲観した様子はない。
「死ぬのは怖い?」
「イえ」
結歌に訊かれ、オアは否定する。
「かつテ自分に、『死』は怖イモのではなイト、教えテくれタ人がいまシタ」
「そう……」
結歌はオアの手を握る。オアも、その手をそっと握り返した。
「これがドウイう意味を持つノか、自分にモ少し分カッタ気がしまス」
「良かったわ」
悲しげに微笑む結歌を見て、オアは笑う。
「悲しマナイでくだサい。自分は、今こノ時マデ『生きて』来ましタ。ダカら、『死ぬ』。それだケデす」
「そうね……そうよね……」
オアは無理やり回路を動かし、映像メモリーのハイライトを再生する。初めての家族の顔、路地裏にいた猫の事、梁と過ごした時間、アヌと、そして結歌の事。
「あア、生まレテキて良かッタ」
それが、彼の最後の言葉だった。
200年生きたヒューマノイド、オアINT104はこうして目を閉じ、そしてもう二度と目を開けなかった。
―― sys.exit ――
オアINT104 橘 泉弥 @bluespring
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