オアINT104

橘 泉弥

1-1

 目を開けると家族がいた。

 オアは即座にその顔を認識し、記憶する。

「初めまして」

 生まれて初めて言葉を発すると、家族の一人、小さい方の子どもが目を丸くした。

「喋った!」

「そうよ、ヒューマノイドだもの」

 女性が子どもの声に返す。

「ひゅうまのいどって、なぁに?」

 その言葉に反応し、オアはまた声を発した。

「自己紹介をさせていただきます」

「自己紹介? できるの?」

「はい。自分は、オアINT104と申します。製造番号は、164302です。オアとお呼びください。よろしくお願い致します」

「お願いします!」

 小さい方の子どもが言う。大きい方の子どもと、その後ろに立つ大人二人は、軽く頭を下げた。

「まず初めに、ロボット三原則の説明をさせていただきます。取扱説明書にも記載はございますが、最重要事項ですので、口頭でもお伝え致します」

 プログラムされた通り、目の前の空間に、手の甲から文言を映し出し、オアはそれを読み上げる。


「第一条 ロボットは人間に危害を加えてはならない。また、その危険を看過する事によって、人間に危害を及ぼしてはならない

 第二条 ロボットは人間に与えられた命令に服従しなければならない。ただし、与えられた命令が第一条に反する場合は、この限りではない

 第三条 ロボットは、前掲第一条及び第二条に反するおそれの無い限り、自己を守らな

 ければならない 

 ――2058年の『ロボット工学ハンドブック 第56版』、『われはロボット』より」


 小さい子どもはぽかんとしている。大きい子どもは首を傾げ、大人二人は感心した様子でうなずいた。

「では、皆様の生体情報を登録させていただきます。自分と握手をしてください」

 オアが右手を差し出すと、まず小さい方の子どもが飛びついた。

「僕ね、酒向春翔さこうはるとだよ。四歳なの。お兄さんなんだよ」

「そうですか。よろしくお願いします」

「うん!」

 次に、大きい方の子どもが渋々オアの手を握った。

酒向勇樹さこうゆうき

 名乗ってすぐ、その手を離す。

「よろしくお願いします」

 その後、女性が少し緊張した様子でオアと握手をした。

酒向恵莉さこうえりよ。よろしくね」

「はい、もちろんです」

 最後に、男性がオアの手を触った。

「おぉ」

 微かに感嘆の声を漏らし、男性は名乗る。

酒向裕一さこうゆういちです」

「よろしくお願いします」

 全員の生体情報を登録し、オアは報告する。

「皆様の情報が登録できました。ご協力、ありがとうございました」

 名字の一致と、登録された情報から、オアは目の前の人間たちを一組の家族と認識した。

「それでは酒向家の皆様、これからよろしくお願い致します」

「お願いします!」

 言葉を返したのは、春翔だけだった。

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