第35話 初めての生理

<フォルテ>


私は小劇場の舞台に立たされ、スポットライトを浴びていた。


「お前はラルゴだ。生まれ持っての男の子だ。女の子であるフォルテとして生まれたという記憶はフェイクだ。シャープと手を組み、フォルテを葬るのだ」


何者かが頭の中に語りかける。


わかっている。これはエッジシャドウ社のナイトメア魔法だ。私を洗脳しようとしているのだ。


だが、私は負けない。洗脳されたふりをして組織の奥深くにまで潜ってやるのだ。


そして、真実を暴き出し、母エリックの気持ちに近づくのだ。


<シャープ>


俺はラルゴの家で看病を受けた。なんでこんな俺のことを世話してくれるのか聞いたが教えてくれなかった。


おかげでだいぶ体力は回復した。どうやら、体が赤く光るやつは、体力と精神力を相当消耗するらしい。だが、おそらくは寝れば回復するタイプの疲れのようだな。


それにしても、スカートってやつは履いているといまだにハラハラドキドキすんなあ。うすっぺらいもの一枚で隔たれてるのがたまんねぇというか。ドーパミンっていうのかな。履いていると興奮ホルモンが頭の中でいっぱいになる。


でも、なんか今日は腹の調子が悪いな。血の気が引くというか、だるいというか。トイレに行くか。


「な、なんだこれー!」


俺の叫び声にフォルテが駆けつけてドアを開ける。鍵かけるの忘れてたな。


「あわわ。股から血が……」


「なんだ。生理じゃないか」


「生理っ。もしかして、あの子どもを産む準備のっ!」


「もしかしなくてもそうだよ。この家にナプキンはー。あったあった。ほら、付け方、教えてあげるから。君は見た感じ軽い方かな」


めちゃくちゃ落ち着いているな。それを見ているこっちも落ち着いてきた。言われた通り、この体は生理が軽いのかもしれない。まあ、運動している女は軽いっていうし、俺もそれに該当するのだろう。


それにしても……。「ずいぶんと詳しいな」と素朴な疑問を口にするとしばらく動きを止めて考え込む。


「そうだな。どうしてなんだろう。生まれてから、今までずっと男だったのに。まるで、女だったことが過去にあるような。いや、気のせいだな」


何か闇のようなものが俺たちを包み込んでいるように見えた。気のせいかもしれないが。


<ラルゴ>


「お、お股から血が……」


その瞬間、頭が真っ白になった。体がふらつき、倒れそうになる。めまいがする――どうやら貧血だ。


ララが驚いた顔で駆け寄ってきた。


「大変! 生理だね。しんどいでしょ、大丈夫?」


「月に1度くるやつ? えー、こんなしんどいの……」


腹の奥から押し寄せる痛みは、ただの疲労とは違っていた。腰も重く、体がまるで鉛のように感じる。この辛さを女の人はみんな経験しているのだろうか。すごいな……。


ララは俺を支えながら、優しく微笑んだ。


「見た感じ、フォルルンは重いタイプかもしれない。生理って、軽い子から重い子までいるから。私も重い方だから気持ちわかる。男の子どころか、女の子同士でも重い子の気持ちって、なかなかわかってもらえなくてさ。私たち仲間だね」


うう。なんか女の子の仲間に入れているようで胸がじーんとなる。なんか自分だけ、この世界でただ一人、孤立しているような気持になったけど癒される。


「白湯飲む? お腹温めるだけでもだいぶ楽になるから、あたし準備してあげるね」


ララがそう言って、手際よく準備を始める。彼女が差し出してくれた白湯を両手で包み込むと、湯気が顔にかかり、ほっとした気持ちが広がる。ただのお湯なのに、不思議と心まで温まるようだった。


「ありがとう……ララ、本当にありがとう」


涙があふれそうになる。僕は生理の痛み以上に、その優しさに打たれていた。

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