第20話 悪夢と乙女の身支度

<ラルゴ>


ここはどこ? ピンク色のもやがかかっていて、僕はふわふわのゴスロリ服を着ているが裸足だ。光が差す方へ歩いていくと周囲のもやは晴れ、様々な料理道具がたくさんある場所にたどりついた。


ここは厨房だ。レストランというよりかは金持ちの別荘のように見えた。もしかしたら、ここは……と思い見渡すと、見たことのある風景が。そうだ。テヌートの家だ。


机の上に視線を投げると、ストロベリーショートケーキが置いてあった。丁寧にスプーンまで置いてある。


お腹が鳴る。甘いもの食べたいな。おもむろにスプーンでイチゴをすくい取り、口に運ぶ。


いっただきまーす。おいしい! もぐもぐ。うまうま。舌鼓を打っていると背後から、人の気配が。


「いけない人ですね」


低い声がお腹に響く。


「テヌート!」


執事服を着たテヌートが現れ、耳元でささやく。


「そんなにおいしかったんですか。勝手に食べたらダメじゃないですか。これは僕のケーキなんだから。あーあ、口元にクリームが付いてますよ」


指で僕の口元のケーキをすくいとるとぺろりと自分の指を舐める。


「悪い子にはおしおきしないといけないですね。おしりぺんぺんの刑です」


「お、おしおき? そんなことしたらだめえええええええええ!」


☆ ☆ ☆


目覚ましの音がけたたましく鳴るので止める。ララがカーテンを手早く開けるのが目に入る。


「おはよう」


あくびをして、話しかけると、ララがあきれた顔をして言った。


「おはようじゃないわよ。朝方の体の光り方がすごかったわよ。どういう体質なの?」


あわわわわ。また、心が乙女になってしまった。しかも、テヌートにおしおきされる夢で! ごめんなさい。僕は恥ずかしい人間です。神様許してください!


「えっと、体調不良になると体が光るかな? そう! 体調不良!」


「ふーん。体調不良なら仕方ないけど、光るの抑えられるなら、抑えてくれないかな」


「わ、わかった」


ララがパジャマを脱ぎ、制服に着替え始めたのであわてて目を逸らし、自分の着替えに専念する。僕の中身は男だ。女の子の下着姿を見てはいけない。彼女たちの心を傷つけてしまうことだろう。


女の身支度は、男の身支度にスキンケア、ヘアケアが加わる。大人になったらさらにメイクが加わることだろう。


それを見越して目覚ましのタイマーを早めにセットしたのだが、丁寧にやろうとすると、いくらでも時間を食う。


ドライヤーからのヘアオイル、化粧水からの保湿クリーム。ララは悪戦苦闘する僕の姿をあきれたように腕組みをして眺めた。


「あんた、だいぶ丁寧にやるのね。時間なくなるよ」


ここまで普通はやらないのかと我に返る。自分の体じゃないから頑張らなくて良いはずなんだ。でも、カワイイは追求したい。でも、僕は男だし。気持ちが複雑!


「テヌートって人を待たせてるから早くしなよ?」


ええっ? どうして、テヌートが? はっ! ボディーガードって誰かと思ってたらそういうこと?


<シャープ>


「シャープ! 起きなさい! 遅刻するわよー」


いっけねぇ! 寝過ごしたぁ! サッと制服を装着して、鏡を見てにんまり。俺ってばなかなかの美少女じゃないの。


さっさとパンでも咥えて出て行くとするか。入学式から遅れるとかなめられるからな。


「スカートのファスナーの隙間から見えてるわよ! 髪の毛ボサボサ! 女の子の自覚持ってる?」


指摘されてあわててファスナーをあげる。まあ、パンツくらいいくらでもただで見せてやるけどな。がはは。


「髪の毛このままでいいだろ? 時間ねえし」


さっと家を飛び出した!

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