第33話 殺し屋右殺義登場

<シャドウ3代目>


黒服の部下がつまらない報告をするので、俺は眉をひそめた。


「ほほう。新入りが増えたと。しかも、魔女アリアを倒した人間だと?」


「危険ですよ。どう考えても、我々の内部事情をスパイ行為しにきたとしかみえないじゃないですか」


どうやら、組織のトップの権限を使って、部下の勝手な判断を阻止しろと言わんとしているらしい。だが、その手には乗らん。


「構わん。適当に泳がせておけ。そいつにもナイトメアの魔法を仕込んで洗脳すれば戦闘員になるだろう」


「し、しかし」


「組織の多様性は大事だ。それは、傘下たるエッジホープ社の理念でもあるだろう。うむ、これで、カルマポイント5ポイント追加だな!」


「か、かるまぽいんと……」


「知っておろう。初代シャドウ様が制定した組織拡大のための重要業務評価指標を。未来予測魔法を駆使して、カルマポイントを稼ぐ行動を取れば取るほど、それと連動して自然と組織は拡大し、傘下の会社の時価総額もあがっていく仕組みになっている」


「そ、それは先先代が決められたシステムで、あなた様はあなた様でカラーと主体性を持たれてもいいのでは?」


部下がくだらぬことを言うので睨んだ。


「この場でお前を消してもいいんだぞ。そうすればカルマポイント1くらいには足しになる」


「ひいっ。お許しを」


「いいか。よく聞け。初代が決められたルールは絶対なのだ。異世界先進国においても国内総生産なる指標を追いかける行動こそが社会の七難を隠すと言われている。異世界受験生も受験偏差値こそが正義だ。先代の2世様もカルマポイントを稼ぐ行動を取ることにより、組織の拡大をはかられた。この数値指標が間違っているというのなら、もっと優秀な指標を持ってこい。代案なき批判ならば、誰にでもできるのだ。現代のビジネスマンの基本だろう」


「……」


数字で迫るとうるさい部下も黙る。この世は数字でできている。万が一、誤りがあると言うのであれば、それは数式モデルが間違っているのだ。より、現実に即した数式モデルを作ればいい。異世界の地動説もニュートン力学もアダムスミスの経済学もそうやって証明されてきたのだ。数字数字数字。数字こそこの世の全てなのだ。


講釈を垂れている場合ではない。大事なことを思い出す。


「それより、右殺義(うさぎ)はどうした。魔女アリアを葬って浮いた金で派遣殺し屋を雇う話だったはずだ」


「ははっ。実は先ほど到着して待たせております」


「通せ」


右殺義は、全身、白く毛むくじゃらで長耳をピンと伸ばし、頬に傷を抱え、サングラスをかけた姿で現れた。葉巻を咥えている。左右を見渡し、金銀で彩られた美術品を鑑賞して言った。


「悪趣味だな。これもカルマポイントなるものをあげるためのものか」


「先代の趣味だ。魔法風水というものにはまっていてな。異世界中国から入ってきた文化を独自に魔改造したものだ。まあ、座ってくれ」


「ふうむ。先代の呪縛から逃れられない運命か」


長机に向かい合う形になる。


「うさぎという幻の召喚獣が具現化して獣人化した存在だと聞いたが、まことに驚いた」


「異世界地球では俺たちは、そんな珍しい生き物じゃない。愛玩動物、つまりペットになったり、食料事情の良くない国では巨大なうさぎが食用にされていたりする」


「それが、なぜ殺し屋なんかになったんだね」


「この魔法世界では、うさぎは強力な戦闘能力を持った秘密兵器として扱われてきた。この俺もその一人だ。だが、実験動物をやっているのにも飽きてしまってね。アイネクライネ博士という俺の創造主を殺して、自由に生きることにしたわけよ」


「なるほど。貴様のような自由人、あるいは自由兎を使いこなすと、カルマポイントが貯まる。気に入った。仕事を命じるとしよう」


「判断基準がすべてカルマなんだな。まあ、いいだろう。どこのどいつをやれって言うんで?」


「エリーゼって娘だ」


写真を差し出すと右殺義は鼻で笑った。


「ひ弱そうな小娘ではないか。こんなのに秘めたる魔法力があるとでも?」


「コバルトプリンセスだとしてもか?」


「なに?」


殺し屋は写真を握りしめまじまじと見つめる。


「嘘だろ。こんな品のあるお嬢さん丸出しなのが本当に男だっていうのか」


「男なのに中身がほぼ女だから、手強いのだ」


「なるほど、彼女を葬れと言うのだな」


「作戦がある。ボディーガードがついているもんでな。エッジガード社のメンツを潰す方法を取るとカルマポイントが減る」


「なるほど。ボディーガードを引き剥がす。そういうわけだな」

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