第15話 思春期のひとりあそび

<ラルゴ>


「さあさあ、遠慮せず食べていいのよ。お紅茶もおかわりあるからね」


エリーゼさんの元気な声が響き渡る。テーブルに座っているのは、僕と僕の体のフォルテのふたり。


アキラさんは忙しいからとそそくさと立ち去って行った。仕事とは言っていたが、要は、僕たちが襲われないよう何らかの手配してくれているのだろう。僕たちを不安な気持ちにさせないために、夫婦協力プレーしてくれている。とても、頼もしい気持ちになった。


フォルテが僕に耳打ちする。


「男の体の一人遊びって楽しいよな。お前、今までこんなの楽しんでたのか?」


「ひとりあそび?」


何を言い出すのかと思い僕がきょとんとすると、フォルテは狼狽しはじめた。


「お、お前、まさか16にもなってしたことないのか! 無垢そうだと思ってたけどまじかよ!」


なんか変なことを言い出すので僕も不安になってきた


「な、なに? 16歳までにやっておかないといけないことがなんかあるの? 普通の人はみんなやることなの?」


僕の言葉に反応して、フォルテは赤面して、保健体育の授業で聞いたような言葉を耳打ちする。


「それって、エッチな人がやることじゃ……。ええっ。普通はみんなやってるの? どうしよう。僕ってすごく変なのかな。早く男の体に戻らないと。みんなと同じこと体験しなきゃ!」


「ラルゴ……。そんな悩み方するの、貴女は、男子より女子向きの性格だと思う」


ううう。どうやら、僕は、一般人とは違うリアクションをしてしまったようだ。天然ボケと言われることがあるので少し気にしている。女の子の方が似合っているか。そう言われること自体に恥ずかしさと背徳感に基づくドキドキを覚えてしまう。


「あらあら、何の話で盛り上がっているのかしら?」


エリーゼさんが会話に割り込む。


「いえっ! なんでもありません!」


「うちのママも、もともと、男だったんだよ。男に戻る方法もあったけど、迷った末にパパとの愛を誓って女として生きることにしたんだ」


「フォルテ! そんなことあまり言いふらすものじゃありません!」


「えー。いいじゃん。嘘じゃないんだし」


驚きの事実だ。エリーゼさんって普通の綺麗な大人の女性だと思ってたのに、男だった? 嘘でしょ?


「私の若かった頃の男女入れ替わりの呪いは、人に入れ替わったことを言ったら死ぬ副作用があって大変だったわ。まあ、あなたたちにかかっている最新式の呪いは、そのあたり安全に進化してるみたいだから安心だけどね。古い論文を読んでいる研究者なんかはいまだに死ぬと勘違いしている人もいるんじゃないかしら」


へえ。と感嘆しつつ僕は聞いた。


「じゃあ、女になった男として、僕のめちゃくちゃ先輩じゃないですか。女社会に溶け込むコツとかありますか?」


「うーん。自然体でいることかな。たぶんだけど、ラルゴくん、私と同じで天性の乙女の素質があると思うの。ありのままでいるだけで十分、女の子らしく見えるわ」


「ははは」


褒められているようだけど、ちょっと男として情けないような。


「そうだわ。ラルゴくん。そのお洋服、魔女との戦いで少し破けているみたいだから、着替えてみない? かわいいお洋服あるのよ」


「ちょっとお母さん、私の体を着せ替え人形にしないで。あんまりガーリーな服は着せないでって言ってるでしょ」


「ラルゴくん、ハートのリボンとか似合うと思うんだけどなあ」


僕に着せる服を巡って母娘喧嘩をしているようだ。


「まあまあ、いきなり女の子っぽい服も僕も恥ずかしいし、デニムパンツくらいのユニセックスなのありますか」


フォルテは深くうなづき、エリーゼさんは少しがっかりしているようだった。


そこに、アキラさんが帰ってきた。


「ただいま」


僕とフォルテがいることを確認すると表情を変えずに話し出した。


「二人とも、大事な知らせがある。明日から、男子寮と女子寮に入ってもらう」

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