第14話 自白とフルート

<ラルゴ>


男のうめき声が聞こえる。ドアに鈍い音と共に衝撃が伝わる。戦ってるんだ! エリーゼさんが危ない! 僕もなんとかしないと。


ドアに解錠の魔法を唱えようと女声魔法であくせくしていていたら、しばらくして、エリーゼさんが「出てきていいわよー」とのんびりとした声がかかる。


おそるおそる出ていくと、黒服の男がひとり横たわっていた。


「3人全部捕まえようとしたけど、逃げられちゃった。ま、1人だけでも十分ね。魔法警察が来る前に聞きたいこと聞いておかないと」


フルートを手際よく片付けると、細腕でバケツに水を入れると笑顔のまま、眠った男にぶっかける。こ、怖い。


「げほっ。げほげほっ!」


「いろいろと聞きたいことがあるわね。誰の差し金かしら?」


「くっ。誰がしゃべるものか」


すると、笑顔のまま、黒服の首元にナイフをつきつけた。怖いよお。


「私、エリック警部と仲良しなの。昔は一心同体のような関係だったかな。彼に取り調べしてもらうようお願いしようかしら」


「ひ、ひいいっ!言います! 言います!」


エリック警部とは何者か僕は知らないが、黒服が恐れるということはよほど容赦ない取り調べをすることで、その筋では有名に違いなかった。


「まず、所属を言いなさい。エッジホープ社? それとも、エッジディフェンス社?」


「エッジホープ社ですっ! 魔女アリアを倒した2人を始末しろと言われましたあっ!」


どうやら、襲撃者の正体にエリーゼさんは心当たりがある様子だった。


「なるほど。じゃあ、ラルゴくんの方にも差し金が行ってるわけね」


フォルテが危ない! 非力な女子なりに助太刀に行こうとサックスを抱えた僕をエリーゼさんは制止する。


「心配しなくて、大丈夫。こんなこともあろうかと、アキラがあの子を追いかけて守ってくれてるから」


アキラさん。フォルテの父親だ。気づかなかった。いつの間に。


そんな僕の驚きをよそに尋問は続いていた。


「どこから仕組まれてたの?」


「な、何の話だ」


「しらばっくれないで。フォルテが、何も考えずに魔女のところに向かうなんて言い出すとは思えない。何か情報を与えたかあるいは……」


ナイフを2本、横たわる黒服のもみあげのあたりの芝生に突き立てる。


「ひえええっ! 催眠魔法をかけましたっ! 少年を誘うように仕向け、魔女を倒しに行くようにっ!」


なんてことだ。最初から仕組まれていたなんて。ってことは、今の僕の体に催眠魔法がかけられているんだろうか。自分の全身を見渡す。


「大丈夫よ。もう、魔法は解けているみたいね。さて、で、なんで魔女アリアを倒したかったのかしら?」


「あの魔女は、エッジホープ社のベテラン構成員。研究者として、過去にはそれなりに、役に立っていたのだが、人件費がかさむし、ひとりで、暗黙知を蓄積されては、ナレッジマネジメントも進まないし、若手の育成の邪魔になる。いわゆるお局様ってやつだ。組織を新陳代謝するにあたって、追い出したかった」


「なるほど。だから、民間人を殺害したという前科をつけていちゃもんをつけることにした。そういうわけね」


「そ、そうだ。まさか、差し向けた民間人が、倒すとは計算外だった。おかげで始末する手間が省けたわけだ」


「ありがとう。だいたい状況は飲み込めたわ。で、指示したあなたの所属部署はどこ? 医療魔法部? ボランティア管理部?」


「そ、それはさすがに言えない」


「あら。まあ、いいわ。どの部署にせよ、エッジホープ社は魔法省管轄のNPO法人だったはずだから、ショパンくんに働き掛けて圧力かけてもらったらよさそうね」


エリーゼさんの言う、ショパンとは何者かわからないが、ずいぶんと恐ろしい人間と知り合いのようだ。


「俺の知ってることは喋った。も、もう帰っていいだろ?」


エリーゼさんは少し虚空を見つめたが「ま、いいわ」と言い、黒服を解放した。逃げるように村の中央通りへと走り去っていった。僕はおそるおそるエリーゼさんに話しかける。


「大丈夫なんですか? もう一度仲間を連れて襲ってきますよ」


「そうならないように、これから色々と使える知り合いのコネを使って手配しないとね。とりあえず、ハッタリとして、お友達のショパンくんの名前を使ったけど、どれだけ効果があるか……。エッジホープ社は彼ににらみを利かされてるとは聞いているものの。ま、なるようにしかならないわ。深く考えても仕方ないから、シフォンケーキでも食べましょ? お友達が異世界アメリカ旅行のお土産に買ってくれたのよ。おいしいわよー」


「は、はあ……」


本当にのんきに過ごしていていいのだろうか。


※アキラ、エリーゼ、エリック、ショパンなどについて詳しく知りたい人は『声楽学園日記』をお読みください

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