第37話 2枚の秘密兵器
<ラルゴ>
生理明けの日曜日、どこに遊びに行こうかと考えていたら、ララがばたばた走りながらやってきた。
その姿はかわいいとしか言いようがないが、切迫感を感じるのをみてこちらも真顔になる。
「フォルテ。うさちゃんが呼んでるわよ」
「うさちゃん? ウサモフかな」
ウサモフは子どもの頃、フォルテの家に遊びに行ったときに、たびたび見かけた白ウサギだ。田畑に生えている蓮華草をあげるとおいしそうに食べていたのが思い出深い。
廊下に出て中庭に視線を見やると、長耳をピンと伸ばしてこちらに向いている。そして、大声で叫ぶ。
「大変だよ! アキラとエリーゼが!」
声の真剣なトーンで危機であることが分かった。サックスを虚空から取り出し、3階から、ふわりふわりと部屋着のフレアスカートをたなびかせ、地面へと降り立つ。
「どうしたの?」
「ふたりとも、エッジシャドウ社の刺客にやられた! やつはこちらに向かっている!」
「なんだって!」
その声をあげたのは僕ではなかった。
「テヌート! どうしてここに!」
男子禁制の場所だ! なんて平常時だったらのんびり突っ込んでいただろう。
「ウサギの姿の巨体の黒スーツで怪しいやつが、君の写真を眺めながら、こっちに向かっているのを見てさ。気がかりになって知らせに来たんだが、やっぱり、そういうことか……」とテヌート
「そいつだよ! そいつがアキラとエリーゼを!」とウサモフ。
「テヌートが見かけたってことは、ゆっくり来たとしてもそろそろ着くころだ」と僕。
「それが……。ラルゴとシャープの二人が、そのウサギにむかって何かしゃべりかけてて、その間、こっちの方で目で何かを訴えかけていてさ。『自分たちが足止めするからお前は、フォルテに知らせるんだ』と言わんばかりで」とテヌート。
「二人を助けに行かなきゃ!」と僕。
「バカ! 勝てると思うか? やつらの行為を甘んじて隠れるんだ」とテヌート。
「僕に考えがある。やつをやっつけるとっておきの秘密兵器をアキラとエリーゼから1枚ずつ預かっているんだ!」
紙を2枚差し出す。
1枚目は、謎の数式が1ページにわたって長々と書かれていた「... + kΣD + ...」といった感じに。見出しには『カルマポイント』と記載されていた。知り合いで数学の得意そうな人に相談をすれば……、っていっても誰がいるだろう。ララが詳しいかな。
2枚目は、楽譜が書かれていた。『再生のブルース』。
「この曲は、エリーゼが作曲した魔曲。コバルトプリンセスだけが演奏できるサックスとピアノの二重奏だよ」とウサモフ。
「二重奏? 3つ目の伴奏もあるみたいだけど。haって何かな? ハープ?」
「ハープは3人目がいれば……かな? 基本的にサックスのソロ曲で、ピアノとハープが伴奏についていれば、なおいいくらいのものだよ」
「まあまあ、お二人さん。細かい話はあるだろうがよ。まずは、地下室で話しよう。なにせ、我が家は軍人一家。校内にある隠しシェルターの位置も熟知している。敵さんが襲ってきても居なければ何もせず帰るだろうよ」
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