第38話 対決!右殺義VSシャープ

<右殺義>


学校に向かう途中の公園にて、俺の行く手を赤髪の女と黒髪の男が立ちふさがる。エッジシャドウ社のメンバーだ。その一目でわかる威圧感に、周囲の空気が張りつめる。


「よう、グラサンラビット。会うのははじめてになるかな」


赤髪の女、ガーネットプリンスは薄く笑うと、こちらを品定めするかのように鋭い視線を向ける。

俺もまた、無遠慮に睨み返した。


「ほう。誰かと思ったら、ガーネットプリンスさんか。俺は、フォルテという女に用事があるんだ。ちょうどいい。場所を案内してもらおうか」


すると、行く手を遮るように、エレキギターを構える。相手の男も虚空から電子ティンパニを3つ取り出す。耳障りな高周波が微かに響いた。まるで、戦いの合図だ。


「なんのつもりだ」


「貴様にフォルテをやらせるつもりはない。俺の手でやつに鉄槌を下したいからな」


「ふん。そんなことを言いながら庇っているつもりじゃあるまいな」


ナイトメア魔法でこの2人は、ある程度、洗脳が施されていると聞いている。だが、まだ洗脳がはじまってから、そんなに時間は経っていない。まだ、反抗する余裕は残っているみたいだな。わずかに揺れる瞳から、ためらいが覗いている。


「庇う? 冗談じゃない。あいつは、俺の姉のカタキなんだ」


「じゃあ、俺の見ているところで、命を奪ってみろ。3人で協力するんだ」


言い放つと、シャープの奥歯がギリリと音を立てる。


「と、とにかく、ここは通さないと言っているんだ。帰ってもらおう」


「ほほう。強情だな。まあいい。ちょうど、貴様らの腕を試してやろうと思っていたっところなんだ」


俺はバイオリンを構える。弓をスッと引き絞り、氷の旋律を奏でる。


「アドバンスアイス!」


瞬間、凍てつく風が園内を吹き荒れる。


だが、二人は同時にエレキギターとティンパニを鳴らし、「マスターファイアー!」とセッションする。


荒れ狂う氷と炎がぶつかり合い、周囲に衝撃波が走った。


「ほほう。なかなか息ピッタリじゃないか。恋人にでもなった方がいいのではないか?」


「そ、そんなんじゃないっ!」とふたりはユニゾンする。


「では、次を受けてみろ――影のカノン!」


邪悪なバイオリンの音色が空気を黒く染め上げ、二人の視界を奪いにかかる。


「目がっ。目が…‥!」


「大丈夫だ! 心の目で捉えろ!」


「ふふっ。エリーゼも同じ方法で戦おうとしていたな。俺に倒されるやつは常に同じ方法を取る。だが、そんなものは我が魔法の前では無力! アドバンスサンダーをお見舞いしてやる!」


「ぎゃあっ!」


ビリビリと空気を震わせる雷鳴。稲妻はギターの弦からティンパニの皮へと一瞬で走り、強烈な衝撃を与える。


エレキギターと電子ティンパニのその性質上、雷の魔力をまともに食らってしまった二人は、悲鳴を上げて地に崩れ落ちる。


「ふふっ。エレキギターと電子ティンパニという楽器のチョイスが失敗だったな。雷の魔法の前では電子楽器など、無力! 無力! 無力!」


俺は倒れ込む二人のそばへ悠然と歩み寄り、シャープの胸倉をひっ掴んで宙へ吊り上げる。


「ぐぐっ。くそぉっ……!」


「安心しろ。今すぐ、貴様らを葬ったりはしない。組織の連中は、貴様をスーパーガーネットプリンスに覚醒することを期待しているからな。スーパーガーネットプリンスは普通のガーネットプリンスの3倍の強さになる。スーパーガーネットプリンスに貴様がめでたく覚醒した日には、戦場に投入し、殺戮兵器として活躍してもらう」


指から力を抜いてシャープを地面に落とす。


「ぎゃあっ!」


後から駆け寄ってきたエッジシャドウ社の戦闘員2人が、命令を待つようにピタリと足を止める。


「ちょうどいい。この2人を牢に入れておけ。もう少し、洗脳が進むまで自由を奪っておいた方がいい」


「はっ‥‥!」


さてと、俺は俺で本題の仕事に入らないとな。コバルトプリンセスを葬らないと。スーパーコバルトプリンセスにでも覚醒されたら、面倒どころの騒ぎじゃなくなるからな。


俺は背を翻し、静まりかえった公園を後にする。


残ったのは、雷の焦げた匂いと、遠ざかるバイオリンの狂気の残響だけだった。

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