第22話 ギタリストとドラマー

<シャープ>


パンを咥え、朝の光を切り裂くように、僕は全力で走っていた。時間との戦いだ。


「間に合え、お願いだ……!」


心の中で叫びながら、息は荒く、体が思うように動かない。胸が不快なほど揺れて、男の体では感じなかった違和感に苛立ちを覚える。


「くそっ、女の体ってこんなに走りづらいのかよ!」


焦燥感が募る中、角をヘアピンのごとく曲がると、目の前に男子学生が現れた。


「あぶねぇ、ぶつかる!」


避けようとしたが、頭がごつんとぶつかり、ふと足元を見ると、スカートがふわっと舞い上がっている。けど、そんなこと気にしてる場合じゃない。


「どこ見てやがるんだ!」と睨むが、相手も負けずに同じ視線を返してきた。


「そっちこそ危ねぇだろ!」


思わず睨めっこになる。


「それどころじゃねぇや。遅刻する」


「待て、君、楽器魔法使えるか?」


唐突に話しかけてくるので答える。


「ベース魔法とコントラバス魔法は使える。あとは本業じゃないがギター魔法もかな」


「セッションしないか? 俺の名前はラルゴ。ドラムが得意なんだ」


「なるほど、ドラムとギターのセッションでテレポーテーション魔法ってわけか」


ベース単独でのテレポーテーション魔法も先日、使ったが、あれは、月に1回しか使えない制限がある。


それに対して、ドラムとギターのセッション魔法であれば月に3回使える。


「いいだろう、俺のギターに合わせられるか?」


「言ってくれるじゃないか、泣き言言うなよ?」


俺は亜空間に手を突っ込み、愛用のレスポールモデルのギターを引き出した。ギターを構えると、体に電流が走ったかのように指が自然に動き出す。目の前にいるラルゴがドラムスティックを手にし、リズムを取り始めた。カウントが鳴り響く。


「いくぞ、準備はいいか?」ラルゴの声が鋭く響く。


「お前こそ、ついてこれるか?」


俺はギターの弦に手をかけ、全力でパワーコードをかき鳴らした。


バリィィン!


ギターの音が炸裂し、空気が震える。歪んだ音が鳴り響き、ラルゴのドラムに乗る。彼のスティックがスネアを打ち鳴らすたび、地面が揺れたような錯覚を覚える。ドラムの一発一発が、まるで戦場の砲撃のように重く、鋭い。リズムが僕のギターを引き立て、音の波が僕たちを包み込んでいく。


「これが俺のリズムだ!ついてこい!」


ラルゴは言葉に負けぬ力強さでビートを刻む。


「ふん、遅れるなよ!」


俺はパワーコードを続けてかき鳴らし、ギターの音がさらに熱を帯びていく。音の波動が空間を切り裂き、俺たちの周囲にエネルギーの渦が巻き起こる。ギターの音は叫び声のように、ラルゴのドラムと共に全身に響き渡る。


ラルゴは両手で狂ったようにドラムを叩き続け、僕のギターと融合していく。僕たちの音が一つになる瞬間、魔法の波動が一気に増幅した。ドゴォォン!


音の衝撃波が広がり、まるで雷鳴のような轟音が空気を震わせる。その瞬間、僕たちは宙に浮き上がった。


学校の正門前に瞬時にテレポート。ギターの音がまだ空気中に響いているかのように、手が震え、心臓が高鳴っている。始業12分前、ギリギリのタイミングで到着した。時刻は始業の12分前。


「やったな!」


ハイタッチをする。


「俺たち、音楽性合いそうじゃないか? 好きなバンドは?」


「ドライフラワーフラッグ」


それを聞いたラルゴは親指を立てる。


「異世界アイルランドのハードロックバンドじゃないか。いい趣味してるね」


「どうも!」


人差し指と小指のメロイックサインで返事する。


女友達をたくさん作って百合百合するつもりだったが、学園に入って最初にできたのは男友達だった。


入学式は、つつがなく終わり、クラス分けがはじまった。


クラスメイトの名前を眺めてると、見覚えのある名前が。


ラルゴも同じクラス、先日、ショッピングモールで出会った、ララとフォルテという2人も同じクラスのようだった。楽しい薔薇色の学園生活が送れそうな予感がした。


教室に行き、自分の席に着く。


教壇に担任が現れ、自己紹介をする。生徒も各々自己紹介をした後、健康診断がはじまった。


これが、俺にとって悪夢の始まりとは、まだ、知らずにいた。

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