第16話 ポリティカルバランス
<ラルゴ>
僕とフォルテは、1週間後の4月6日にライオジアハイスクール入学する予定である。この保守的な片田舎には他に進路は用意されていない。
成績が優秀ならば、ミラヴェニア魔法学校という都会のエリート校にも進路を取れるのだが、僕たちは平凡な成績なもので、当然地元の学校に入るしかなかった。とはいえ、 中学を卒業して働く生徒もうちの地域では半分くらいいるので、高校に行かせてもらえることはとてもありがたいものである。
ハイスクールまでは、自転車で45分程度。遠いと言えば、それなりに遠いが、この程度の距離であれば、自宅から通うのが通例である。
それを寮に入れと言うからには何らかの理由があるはずである。
「ラルゴくんの両親にも話はつけてあるから、心配しないでいい」
「どうしてです? 家からでも通えるんじゃ?」
「色々と頑張ってみた結果、エッジホープ社は、君たちに手出しをしないことになった。だが、エッジガード社は何をしでかすかわからない」
エッジガード社。そういえば、魔女の屋敷にバッジが落ちていたな。
「エッジガード社は保守派じゃないんですか? リベラルのエッジホープ社とイデオロギーを異にする関係じゃ?」
「表面上はね」
「実態は違うと言いたいんですか」
「その疑問は、ここだからできるが、外では口に出さない方がいい。証拠を出せと言って、徹底的に詰められる。学生だからまだ許されるが、大人社会では許されないことだ」
大人社会の汚い部分がうっすらと見え隠れする。普段は別組織のふりをして、右と左を都合よく使い分け、片方からアプローチできないときはもう片方からアプローチするってところだろうか。
しかも、そのことに言及しないことが大人の態度であり、空気を読むべきものだとされている。このようなインチキ不文律が、きっとこの村社会だけでなく、都会や異世界にも、どこの社会にもあるのだと思うとうんざりするのだった。
不服そうな顔をしているとアキラさんは付け加えた。
「大人社会は複雑な利害関係の上に成り立っている。エッジホープ社やエッジガード社も、ただ、ひたすら、汚いだけの組織ではない。清濁合わせ呑む存在だからこそ、こうして存続が許されている。僕も若い頃は、社会の闇を暴くために無茶をしたことがある。そのときは正しいと思って突き進んでいたが、正義を貫こうとすれば、光だけでなく闇も抱えることになるんだよ」
スーツ姿のアキラさんの背中が寂しそうに見えた。
「まあ、それはともかく、君の体は大切な娘の体だ。ボディーガードをつけよう」
「ボディーガード?」
「保守系の家系に育った男子生徒だ。彼の周囲で何かしら問題が発生したら、エッジガード社内でもきっと問題になるから手出しができないはずだ」
なるほど。意外と世の中うまくできているらしい。
「ありがとうございます。でも、僕の体のフォルテは大丈夫なんですか?」
「君の家は保守系の政党の会員だろう。総裁選挙への投票権があるくらいには深く入り込んでいる」
なるほど。確かに言われてみればそうだ。うちの家でとっている新聞も保守系だ。いや、うちの家だけじゃなくご近所も。
このあたりは農村地帯だ。選挙で保守政党が勝てば、経済的に優遇措置が取られる。だから、自然と保守を支持するようになるし、選挙においても保守系の議員が常勝だ。
対して、エリーゼさんとアキラさんの夫婦は、このあたりでは珍しいリベラル派だ。当然、ふたりに育てられたフォルテもリベラルに育つ。ふたりは都会のリベラル色の濃いエリート校で出会ったと聞いた。きっと、都会の雑踏に疲れたふたりはスローライフに憧れてこんな田舎にやってきたのだろう。
そんなこんなで、僕は、実の娘のようにお二人に愛され、幸せな日々を過ごしつつ、女子寮に入ることになった。
「私の名前は、ララ! 魔族と人間のハーフなの! 仲良くしましょうね!」
新しい仲間と過ごす学生生活がはじまったのだった。
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