第32話 復讐こそ我が人生
<フォルテ>
ふむ。和太鼓魔法は、力強く場面によっては使えるかもしれない。仲間が諦めそうになったとき、ダメになったとき、やる気アップする魔法効果がありそうだ。実際、異世界サムライは、鼓舞なるモチベーションアップに陣太鼓なるものを使っていたらしい。
お小遣いためて、買おうかな。なんて考えつつ、テーマパークからの帰途についていると、不審な気配がした。森の茂みで誰かが呻いているのだ。
ここは、少し、人里離れた場所にあり、人通りも多くない。誰かを呼ぼうと思ったが、あきらめて、そのまま、茂みにむかうことにした。
「シャープ!」
なんてことだ。同級生が赤いドレスを着て、あおむけで倒れていた。
「ひどい傷だ。一体、誰がこんなことを」
太ももと頬を中心にあざが出来ていた。
「ラルゴ……か。見られたくないところを見られちまったな」
ラルゴ呼びか。そうか、こいつは俺の正体がフォルテだってことを知らないんだな。クラス中で噂になっているのに。もしかして、こいつ、人間関係で、少しハブられているのか。
「ふふ。これは自傷さ」
「自傷ってどういうことだ」
「知っての通り、俺の正体は男だ。女体化男子は、心に怒りのボルテージが一定レベルを超えると、体が赤く光り、ガーネットプリンスというものに変身する」
なるほど、コバルトプリンセスとかいうやつの色違いってわけか。
「だが、この変身は体に負担がかかる。離脱症状として、傷ができ、全身にあざができる」
「そんなものに変身するのやめろよ」
「ダメだ。俺は、復讐しなければいけない。姉を殺したフォルテに……」
「!?」
どういうことだ。私に復讐をしようとは。仮に本当に復讐相手として私が妥当だとしても、今の私の体の持ち主は、ラルゴは関係ない。
「他言はしないから、事情を聞きたい。信用できないというのなら言わなくていいが……」
「わかった。音楽性で意気投合したお前なら話してもいいだろう。エッジシャドウ社について」
「エッジシャドウ社……」
自分なりにエッジガード社とエッジホープ社について調べていたら、都市伝説的に噂を耳にしたことがある。両社を操り、左右のイデオロギーを手中に収める影のホールディングカンパニー。暗殺を生業とした集団から、発生したと言われている。
だが、それは、風の噂にすぎない。そんなもの本当に実在すると口にした日には、中二病と扱われるならまだいい方で、陰謀論者として社会から浮いた存在になってしまうことだろう。
しかし、魔女と戦い、体の入れ替わりを経験し、青く光るラルゴを目にし、こうして目の前に傷ついて倒れている同級生が居る。これだけ、経験すれば、その存在が本物と信じざるを得なかった。
シャープは語った。姉の後を継いで、エッジシャドウ社に潜入し、闇を暴こうとしたこと。不思議な夢を見て、姉から仇をとってほしいと言われたこと。組織の命令で、先ほど、ラルゴ、ララ、テヌートの3人を襲ったが、失敗したこと。
正直言って、夢の話は変だと思った。もしかして、組織に何らかの方法で心をむしばまれているのではということを疑った。だが、それと同時にカウンセリングの基本とされていることを思い出す。
相手の言うことを否定しない。
シャープの心は確実に闇にむしばまれている。彼が危険を冒してまで行動をする根幹をなす動機を否定したらどうなるだろう。きっと、強い拒絶反応を示し、信頼関係はここで終わりだ。
だが、肯定すれば、考えは強化され、危険行動を引き続き取るようになるだろう。
ここで、突き放して人間関係を終わらせるのはたやすい。だが、私は葛藤していた。似ているのだ。私のもう一人の母親に。
私の母親エリーゼは若い頃、私とラルゴのように男女で体を入れ替えた。そして、本来の母の魂は、エリックと言う男性の体に宿ることとなった。それは、家族を葬ったとある悪徳政治家に復讐するためだった。政治家を告発するために男の体と能力が必要だったからだ。無事、その復讐はなしとげられ、母親はエリックと言う男性として生き、警察官となった。
シャープの話を聞いていると、真の母親エリックに思いをはせてしまった。シャープと一緒に行動することで、母親エリックの本当の気持ちに近づけるかもしれない。そんな気持ちになったのだ。
力になってあげたい。それが、たとえ、元の自分であるラルゴを傷つけることになったとしても。エッジシャドウ社の深層に潜り、すべてを白日の下にさらしたい。
この手を血に染めてでも。悪に染まってでも。
通り雨が再びやってきて、雷鳴がとどろいた。
「一緒に手を組もうか」
私はシャープに手を差し伸べた。
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