第31話 フリージャズ魔法の奇跡

<ラルゴ>


いやあああああっ! また、乙女覚醒しちゃった! イケメンのホログラムにいくらキスされても、変身しないのにテヌートに壁ドンされただけで変身しちゃった! 彼のこと好きって言ってるようなものじゃないかっ! やだやだやだやだっ! 恥ずかしすぎ! 僕は男なのに! 僕は男なのに!


これって、テヌートは、僕の体質知ってるってことなのかな? いや、バレていないはずだ。バレてほしくないよう。バレたら、穴に入って消えたくなりすぎる。


「恥じらっている場合じゃないよ。さあ、セッション魔法やりなよ」


ララの号令に気圧され、テヌートとセッション魔法をこなす。魔女と戦っているときより、息がぴったりに、なりつつある。まるで、恋人のように……。僕ったら、そんなこと考えちゃだめええええ。


深呼吸して、落ち着こう。ひーひーふー。違う。ラマーズ法じゃないっ。男がこんなこと練習してどうする。まるで、僕が、将来、テヌートと男女の関係を持って、そうなってしまうみたいに。いやあああああ!


よし、落ち着いた。


とにかく、火や水や風や地を基調とした派手な魔法の数々を僕たちは繰り出した。だが、赤の仮面の持ち主との戦いは膠着状態になった。互角と言ったところか。いや、こちらは2人。息を合わせてようやく向こうに、五分五分で対抗できているということは、向こうの方が実力は上だ。


「私も加勢しようか。役に立たないかもだけど」とララが進言する。


「勝手にしろ」とテヌートは冷たい返事。


「万策尽きているが、最後に試したいことがある。フォルテ。フリージャズ音楽はできるか?」


「やったことないよ。っていうか、フリージャズなんかで魔法唱えられるの?」


フリージャズは1960年代の異世界アメリカで隆盛を誇った前衛的なジャズ音楽だ。実験要素があまりにも強いため、誰も魔法用の音楽とみなしていない。


「何が出るかわからないから、誰も開拓していないからこそ、どんな魔法効果が出るか試してみる価値がある。鬼がでるか蛇がでるか」


「なるほど。一か八かの賭けってわけね。面白いじゃない。やってみよう」


と、作戦会議が終わったところに仮面は挑発してくる。


「どうした? 死んだ後の遺産相続の相談か?」


だが、僕はそれをスルーして聞くべきことを聞いておくことにした。


「ねえ。私たちって、どうしても戦わないと傷つけあわないといけないの? 話し合いはできないの? 私が過去にあなたを傷つけてしまったのなら謝るわ。事情を話してくれないかしら」


「黙れ! 今更、謝って失われたものは戻ってこないんだ! 死をもって償え!」


琵琶を構えて、演奏を始めたので、こちらも対抗して、3人でセッションをはじめる。テヌートのキリっとした顔がかっこいい。だが、3人の演奏はバラバラで効果のありそうな魔法は生成されない。


万事休すか。そう思われた、そのときだった。


「頭がっ。頭があああああ!」


赤仮面は、こめかみのあたりをてのひらで押さえて、跪く。


「フリージャズ魔法が効いた?」とテヌート。


「いや、3人の演奏はバラバラだったはず。魔法効果は起きないはず。あるとしたら、ハープが効果を発揮したとかだけど。何を演奏したの?」と僕。


「いやあ、何を演奏していいかわかんなかったから、良い子がいい夢見られる魔法をね」とララ。


「関係なさすぎだよ」


「だって、最初に覚えた魔法それだったから。あはは」


こんな調子で言いあっていると、赤仮面は、遠くへ走り出して逃げ出した。


「待てっ!」と僕が言うとテヌートが制止する


「いや、追うのはやめよう。どんな敵の加勢がやってくるかわからない。この遊園地エリアに居る限り、時間稼ぎさえすれば、魔法警察がやってくる」


まるで、それが、合図だったかのように遠くから、警察の魔法馬車がやってくる。遅すぎるよ。もっと早く来てくれないと。


「正当防衛とはいえ、私たちも怒られちゃうね」とララが言うので「だねえ」と女子っぽい相槌を打ってみた。

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