第8話 救命サックス

<ラルゴ>


テヌートの腕から血が流れ出していた。彼の負傷は深刻そうだ。このままでは危険だと判断し、僕は自分の髪の黄色いリボンに手をやる。それはおそらく大事なものであろうが、今は彼の命が優先だ。しゅるるとほどいて、彼の腕にしっかりと巻きつけて止血する。


「君、あの男を追わなくていいのか? 彼の彼女なんだろう?」


テヌートは視線を合わせてくれない。心が折れそうだったが、今は彼の命を守ることが最優先だ。しばらくして、テヌートの目から力が抜け、彼の体が崩れるように倒れた。このままではまずい、彼を救わなければ。


僕の手元にはテナーサックスがあるが、これは攻撃魔法などのための楽器で、回復魔法を扱うことはできない。僕にできることは、彼を別荘まで運び、古来の手当てを施すことくらいだ。


サックスを構え、風の呪文を唱えると、僕のスカートとテヌートの体がふわりと持ち上がった。彼を傷つけないように、できるだけ姿勢を保ちながら別荘まで運ぶしかない。あの大きな家なら、救急箱の一つくらいはあるだろう。


魔法で別荘に向かってゆっくりと進む。息を持続させる肺活量と、適切なリズムでブレスを挟む集中力が求められた。地面から100メートルほどの高さで、森の木々を避けつつ、確実に前進する。あまりに低く飛べば木々にぶつかり、高すぎれば自分の位置を見失う。適切な高度を保ち、慎重に進んでいく。


やがて別荘の灯りが見えてきたその時、空中に何者かが飛んできたのが見えた。敵襲かと身構えたが、近づいてくるのは燕尾服を着た老人だった。ほうきを操るその姿に安堵の息が漏れる。どうやらテヌート家で雇われている執事のようだ。


「テヌート坊ちゃま! 一体どこに行かれていたのですか。大変です、負傷されています!」


状況を即座に理解した執事は、僕たちを裏口へと誘導し、二人でテヌートをベッドに寝かせた。


「救急車を呼びましたので、ご安心ください。出血は、こちらのお嬢様のお手当のおかげでなんとかなりそうです」


執事は眠りについたテヌートに優しく語りかけ、毛布をかけて心配そうに見守る。その様子から、彼が単なる雇い主以上の存在であることが感じ取れた。彼はきっと、長年愛情を込めてテヌートに接してきたのだろう。


しばらくして、医者が駆けつけ、テヌートを診察し始めた。


「適切な応急処置のおかげで失血は最低限に抑えられています。神経の損傷もないようです。精密検査の結果次第ではありますが、後遺症もおそらく残らないでしょう。鎮痛剤を与えて安静にさせましょう」


その言葉を聞いて、僕たちはようやく胸を撫で下ろすことができた。


安堵した途端、尿意がこみ上げてきた。長い間、外での悪戦苦闘が続いたから仕方ない。女の子の体でトイレに行くのは気が引けるが、フォルテに申し訳ないとは思いながらも、生理現象には抗えない。僕はトイレへ向かうことにした。

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