第3話 続きを進む恐怖の途中

お風呂から上がって京子から貰ったネックレスを見る。

貰ったネックレスをつけてと言われてつけた時

顔から火が出そうなくらい恥ずかしかった覚えがある。

出会ってから京子のことはずっと好きだったけど、

明確に京子を意識し始めたのは間違いなくあの日だった。

そもそも京子は何で私にこんなものを掘り起こさせたのか。

その理由もいまだに聞けてない。

ネックレスはあれから6年経った今でもほとんど肌見放さずつけている。

外すのはお風呂の時くらいだ。

でも常につけているなんてことは京子に言ったことはない。無論恥ずかしいからだ。

私は恥ずかしい恥ずかしい言いながら想いを伏せたまま

京子が私から離れていくのを見ることになるのだろうか。

京子の結婚式に出て笑顔で祝福出来るのだろうか。

別に今も私の物ではないけど。

「はあ~…」

凄まじく大きいため息が出る。

私はこんな自分が嫌いだ。

そもそも私が京子に想いを伝えたところで何がどうなるというのか。

ただの自己満足じゃないか。

女同士で結婚が出来るわけもなく

ましてや京子はいいところのお嬢さんで許婚がいるという。

私なんかが細川家に割って入れるわけがない。

京子は一体私のことをどう思ってるのだろうか。

「寝よっと…」

自分で考えても答えが出るわけもない問題を放置してベッドに入る。

寝る度に大学卒業までの日数が一日ずつ進み、京子の結婚が近づいてしまう。

本当にあんなこと聞かなきゃ良かった。

自分の人生の続きを進む恐怖がこれから毎日襲ってくる。

京子と出会ってから心は強くならないままだ。

これから耐えきれるのだろうか。

京子が私から離れた時、私はどうなってしまうのか。

頭の中がグチャグチャになりながらも私は眠りに落ちていった。



目が覚めた頃には12時を過ぎていて京子はもうとっくに大学に行っていた。

私はバイトが遅くまであるから午前中に講義を入れていない。

起きられるわけがない。

朝…昼?ご飯が用意してある。京子はいつも作ってくれている。

私の為に作ってくれるご飯はもうすぐ誰かの物になってしまうのか。

そんなしょうもないことを考えつつ遅い朝食を食べる。

昼の講義は13時半からなので急がないと間に合わないけど急ぐ気も起きない。

ご飯を食べて髪を整えたり化粧をしていたら絶対に間に合わない。

「サボるか…」

このまま堕落してしまったら卒業もできないかもしれない。

私は留年して京子は結婚。考えるだけで更に最悪だ。

「はあ~…」

大きいため息をつきながら食器を洗って大学へ行く準備をし家を出る。

結局講義は10分くらい遅刻した。



何のために行っているかわからない大学へ行って

何のために受けているのかわからない講義を終える。

そもそも何のために生きているのか…

いや、それは京子と一緒にいるため…というか…

そんなことはどうでもよくて…

頭を掻き毟って意識を無にする。

行きたくないけどバイトにいかなきゃ。

今日も私でなくても良い仕事をこなして、

私でなくていいことに相応しいだけの給料をもらう。

心を無にして何も考えないようにしよう。

そうすれば今日もすぐ終わる。



「はぁ~疲れた…」

お金を稼ぐ以外の意義を感じない仕事をこなして帰路につく。

私は大学を卒業したらどうしようか全く考えていない。

特に夢も目標もなく、ただただ卒業に向けて進んでいるのみ。

色々と嫌になってきた。このまま家に帰らずどこか遠くへ行こうかな。

とはいってももう終電も近いし乗った所で宿もないまま放り出されるだけ。

でも今日は帰りたくない気分だ。

京子に今日は帰らないと連絡しておこう。

理由は………バイトでの飲み会が長引くということにしておこう。

そんなことは今までに一度も無かったけど。

『今日バイトの飲み会があってすんごい長引いてるから帰れなくなっちゃった。ご飯用意してたら冷蔵庫に入れておいて。』

メッセージを飛ばす。

すぐ既読になって返信が来る。

『りょ。お持ち帰りとかされちゃってる感じ?』

人の気も知らないで何を言うんだコイツは。

『んなわけないでしょ。おやすみ。』

『おやすみ、美鈴。』

普通にムカついたから即やり取りを終わらす。

泊まれる所を探さないと。

あてもなく10分程歩いたところにネカフェを見つけたので

入店して手続きをする。

ひとまずシャワーを浴びよう。



シャワーを浴びてからすぐ眠くならなくて、暇つぶしに雑誌コーナーを物色する。

ふと見た棚に登山の本があった。

京子は大学で登山サークルに入っていて、

講義以外で家を空ける時はいつも登山に行っている。

なんでわざわざ疲れることををするの?と聞いたら、

そこに山があるからとかいうベッタベタなセリフが返ってきたのを思い出した。

本を手に取ってパラパラとめくってみる。

山の標高、登山コース、登山用グッズ紹介、登山初心者向けコーナーが載っていた。

「登山ってこんなに準備がいるんだなあ。」

そういえば京子の部屋には登山グッズが色々あった気がする。

興味がないからしっかりと確認したことがないけど。

更にパラパラとページをめくる。

ナイトハイクの魅力という特集記事に目が行った。

「夜に登山なんかできるんだ…」

夜に行くことで山頂や展望地から夜景や星空を見たり、

日の出を拝んだり、そういうところが夜に山を登る危険を冒しても魅力らしい。

「まあ私はそんなことやらないけど…」

いい感じに眠くなってきたので本を棚に置いて個室に戻る。

そもそも京子はなんで登山サークルに入ったのだろうか。

それも聞いたことがない気がする。

私は京子の事が好きなはずなのに知らないことが結構多いな…

などと考えている内に意識が沈んできた。

起きられたら早朝に起きて家に帰って京子の顔を見よう。

そう考えている内に眠りについた。


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