第2話 いつだって始めの一歩
小学生の頃の私は夜中に自分の部屋から抜け出して冒険に出かけたりしていた。
普通の家と比べたら遥かに広い家の敷地内。小学生の私には今よりもっと広く見えていた。
当時はこれが普通なんだと思っていたけど。
明るい内に見る庭の景色より夜に見る方がずっと神秘的で、星空がとても綺麗で毎日ワクワクした。
だから毎日寝たふりをしてお母さんにバレないように外に出ていた。
普段は自分の部屋で一人で寝てるけど、お母さんは私が寝たかを確認しに来る。
お母さんが寝る時間は私より数時間遅いからそれまでに冒険を済ませてこっそり寝室に戻るミッション。
毎日色々な場所に行って地図を書いたり宝物を埋めたり買ってもらった望遠鏡で天体観測をした。
今日はどこまで行こうかな。
「うーん…」
「どうしたの?」
「今日の夜は何しよっかなって」
「いつもの夜の冒険?」
「そうそう。そうだ、今度美鈴もやる?」
「えー…家抜け出すのがめっちゃ大変そうなんだけど…、」
「うーん…じゃあ今度泊まりに来てよ。それなら家から抜け出したりしなくてもいいでしょ?」
「確かに!」
「じゃあ帰ったらお母さんに相談してみるね」
大好きな美鈴を家に呼んでお泊り会。更に二人で夜の冒険。
考えただけで胸が高鳴って残りの授業が集中できなかった。
授業が終わってすぐ学校を出る。
急いで家に帰ってお母さんに聞かなきゃ。
「ただいま、お母さん」
走って帰って来たからすごく息が上がってる。
「おかえりなさい、京子。どうしたのそんな息を切らせて。」
「あのね、友達を家に呼んでお泊り会をしたいんだけど…大丈夫かな?」
ドキドキしながら聞いてみる。
「お友達?もしかして美鈴ちゃんかしら。」
「な、なんで分かったの!?」
「だって京子、いつも美鈴ちゃんの話ばかりしているから。」
「そ、そうかな?」
「ふふ、本当に仲が良いのね。呼ぶなら金曜日にしたほうがいいわ。」
「わかった。お母さんありがとう!」
「夜ご飯何が食べたいか美鈴ちゃんにも聞いておいてね。」
「りょーかーい!」
お母さんの許可を得るミッションを完了した。
あとは今日の夜の冒険をどうするかを考えよう。
そして今日も夜に部屋を抜け出して庭を散策する。
夜の冒険が楽しみで日が出てるうちに敷地内を歩いたりしていないから、
私の地図にはまだまだ空白部分が多い。
そして今日も未開の地を目指す。
寝室の窓、ここが出発点。
冒険へ踏み出す時の始めの一歩。
今日は地図を埋めるのとは別に宝物を埋めようと思う。
それを美鈴といっしょに冒険をして宝物を掘り起こす。
それを美鈴にプレゼントするんだ。喜んでくれるかな。
真っ暗闇の庭で懐中電灯を持って歩き出す。
不思議と怖いと思ったことは無かった。
コンパスとお手製の地図を見ながら地図の埋まっていない場所へ向かっていく。
何か目印になるものがあるわけでもなく、あるものは殆ど家と木だけなんだけど。
私は地図に書き込みをしながら進んでいく。
30分ほど散策をして大きな岩を見つけた。なんでこんな大きな岩が置いてあるのかはしらないけどかなり目立つ目印だ。
地図に岩とバッテンを書き込んで、持ってきたスコップで岩の傍に穴を掘る。
そして宝物を入れた缶を埋めた。ここなら多分見失ったりしないだろう。
私の作ってきた地図が宝の地図に変貌した。絶対に美鈴にみつけてもらおう。
そうこうしてる内にお母さんが様子を見に来そうな時間になったから急いで寝室に戻った。
寝たふりを始めてから10分くらいでお母さんが様子を見に来た。危なかった。
そして美鈴の事を考えてる内に私は眠りについた。
「ねえ、冒険って何時くらいにやるの?」
「んー…9時くらいかな。そのくらいに寝なさいって言われるから。」
「えー?そんな時間に寝られないでしょ。」
「だよねえ。だからいつも冒険しちゃうのだ。」
「のだって…見つかったらどうするの?」
「まだ見つかったことないからわかんない。」
「おいおい…」
「見つかる前に帰るんだから大丈夫大丈夫!ということでレッツゴーだよ美鈴!」
「はいはいレッツゴー。」
懐中電灯とコンパスを二つ用意して窓からこっそりと外に出る。
今までずっと一人でやってきたことに美鈴が加わって凄い高揚感。
いつもと同じ出発点。
でも、いつもと違う始めの一歩。
「で、どこへ向かっていくの?」
「このバッテンマークの場所!」
「なにこれ?宝の地図?」
「ごめいとー。ここから南東の方だね。ということでいってらっしゃい!」
「え?私一人で行くの?」
「だって私は場所わかってるから一緒に行っても意味ないでしょ?」
「そりゃそうだけど…真っ暗で怖いし戻れなくなったらどうすんのさ…」
「えー?美鈴さんは夜に一人でトイレにも行けないのー?」
「それとこれとは話が違うでしょ!?」
「わかったわかった、一緒に行こ。」
美鈴と手を繋ぐ。
夏から秋に移り変わって涼しくなった今の時期だと美鈴の体温がちょうどいい。
「ん…」
「んー?どうしたの美鈴さん?」
「な、なんでもない!」
「ちょっと、そんな大きな声出さないでよ。見つかったらどうするの。」
「ご、ごめん…」
実際問題お母さんやお手伝いさんに見つかったらどうなるのだろうか。
流石に怒られるとは思うけど…。
とか考えてたら美鈴が結構震えてる。
「怖い?」
「ちょっと怖い…かも…」
美鈴が少しだけ強がりを見せながら言う。
「大丈夫。私が傍に、隣りにいるよ。」
「うん…」
「じゃあ、行こっか。」
私は慣れた、美鈴は初めての道を進む。
「ねえ、本当にいつもこんな真っ暗の中を冒険してるの?」
「うん。私は最初から怖くなかったよ?」
「京子ってちょっとおかしいんじゃないの…?」
「しつれいなー」
確かにちょっとおかしいかもしれないという自覚はある。
いくら自分の家の敷地内とは言え、真っ暗な状態で一人で出歩いて
毎日地図を書いているなんてお母さんに言ったらどうなるか。
本当は家の外に出てみたいとも思ってるし。
流石に帰ってこられなくなりそうだからやらないけど。
美鈴が怖がらないように他愛の無い話を続けながらバッテンのついた場所にたどり着く。
「到着だよ。」
「あ、地図の岩?ってこれなんだ…」
「ここに宝物が埋まってるんだよ。はいスコップ。」
「え?私が掘るの?」
「そりゃそうでしょ。埋めたのは私なんだから。」
「はいはい…」
美鈴が不満そうに穴を掘って宝物を掘り当てる。
「中身は…ネックレス?」
「はい、お宝は掘り当てた人の者でーす!」
この日の為に用意した三日月を模したネックレス。
そらに浮かぶ月の形とおんなじ。
「あ、ありがとう…」
「嬉しい?」
「うん…」
美鈴の声は嬉しそうだけど表情は複雑だった。
「つけてみてよ。」
「ここで?」
「早く早く。」
暗くて分かりづらいから、手に持った懐中電灯で美鈴を照らす。
美鈴がネックレスをつけてくれたのを見て心臓がドキドキした。
「似合ってる。」
「ありがと…」
「じゃあ戻ろうか。」
再び美鈴と手を繋ぐ。
今度は震えが無くなっていて、さっきよりも手が熱かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます