私はキミに向かってる

剣城士

第1話 世界中に一人だけみたいだな

 あいつ、細川京子とは幼稚園の入園式で出会った。

 人当たりが良くて顔もいい、皆の人気物だった。

 クラスは数クラスあるのに何故かいつも同じで中学でも同じクラスが3年続いた。

 しかも高校も同じ所へ進学して同じクラスが3年続いた。

 何かの運命なのだろうか。

 流石に大学までも同じとはいかなかった。

 けど、地元じゃない県の同じ市内の別々の大学に進学した。

 そんなこんなあって私達はルームシェアをしている。

 京子は仕送りの額が凄いし別にルームシェアしなくても良さそうなんだけど、何故か誘われたから乗った。

 京子と一緒に過ごした時間はかなり長い。

 でも、小中高と比べると顔を合わせる時間も減った。それぞれ大学も違うし京子はサークル、私はバイトがあるんだから当たり前なんだけど。

「ただいま~…ってまあ寝てるか」

 講義終わりから日が変わるまでバイトして帰ったらあいつは基本的にはもう寝てる。

 親からの仕送りは少ないし家賃も払ってもらえない私は毎日働かないと家賃が払えないのだ。

 なのにあいつは実家が太いもんだから最初にルームシェアの話をされたとき家賃払わなくてもいいとか言ってきた。

 流石にそんな条件は飲めないと思って折半にしたんだけど折半でも週6は働かないと厳しい。

 家賃以外にもいろいろ出費があるのだ。

「私が毎日クタクタになるまで働いてるってのにこいつは…」

 ちょっと悪態をついてみる。

「はいはいお疲れ様~」

「起きてんじゃん…」

「明日は講義もサークルもないしね、待ってたの」

「え~私は講義もバイトもあるのに…」

「がんばれがんばれ!」

「はいはい…」

「ご飯食べる?作ってあるけど」

「ん、食べる」

「食べたらお風呂入りなさいね~」

「母親かっつーの」

 京子は昔から勉強もスポーツも私より出来て料理もできる。

 大学も私の通ってる大学なんかより遥かにレベルが高い。

 なんで私と同じ高校に通ってたのだろうか。中学も私立のいいところに行けただろうに。

 それにしてもこれだけ長く一緒にいて京子の浮ついた話を聞いたことがない。

 大学で彼氏を作ってる感じもなさそうだし結婚相手が既に決まってるのだろうか。そういう家柄らしいし。

「京子っていまだに彼氏とかいないの?」

 京子の料理を食べながら今まであえて聞かなかったことを聞いてみる。

「いないよ?」

「許婚とかは?」

「ん~…まあ近いのはいるかな…」

「いるんだ」

「まあもうそういう時代じゃないからって結婚してもしなくてもいいとは言われてるんだけどね。でも親の顔があるから。」

「ふーん」

 さして興味もない風にする。

 やっぱり聞かないほうが良かったかもしれない。というか聞きたくなかった。

 なんで今更そんな事を聞いてしまったんだろうか。自分でもわからない。

「だから多分卒業したらすぐ結婚するかな」

「ふーん……」

 本当に聞かなきゃ良かった。私はバカか。

 そんなの聞かなくてもなんとなく前から分かってたのに。

「なんで今さらそんなこと聞いてきたの?」

 ドキリとした。心中を見透かされてるようだった。

「別に?」

「ふーん?」

「何?」

「別にー?」

「あっそ、ごちそうさま」

「おそまつさまー」

 会話を打ち切って風呂に向かう。これ以上話してたらおかしくなりそうだった。

「おやすみ、京子」

「おやすみ、美鈴」



 風呂に入って考える。

 私はいつから京子の事を意識してたのだろう。

 女性が好きというわけじゃない…と思う。

 そういう私だって浮ついた話は今まで無かった。

 自分から告白したことも、されたこともない。

 京子はよく男から言い寄られていた。でも全て断っていた。

 それが気に食わない女子はいたけど京子には味方も多かった。

 私も味方だけど…特に何かしたわけでもない。

 ただ一番の親友という自負だけがあった。

 いつからか親友ではない関係に憧れるようになった。

 クラスの男子のように京子に告白して付き合いたいって。

 でもいくら多様性だなんだの時代とは言え女同士で付き合うなんてというのが頭にあるし、今の関係が壊れてしまうんじゃないかという恐怖で踏み出せないままだ。

 その上大学を卒業したら結婚するだろうという。

 こんなこと京子本人には相談できるはずもないし、京子くらい仲の良い友人も私にはいない。

「世界中に一人だけみたいだなぁ…」

 小さく零した。

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