第22話

浅沼は、長官室で頭を抱えながら資料を手に苦悩していた。

政府関係者と国民から選ばれた代表者達で構成された、少子化問題解消及び老人問題を発生させないプロジェクトの一員となり、月1回開催される会議の為に自分なりの案を考えていた。

どうすれば、若者が結婚し子供を産み育てたくなる社会にすることができるのか?や、絶対にやってくるであろう元老人達の、再高齢時の財源負担を現役世代からいかに減らせるのか?など、課題は山積で、しかもどれも難題だった。

警察官となって、常に考えてきたのは、安全や平和と言いたいところだが、気づけば出世競争にいかに勝つかだけだった。

そんな自分の過去の罪滅ぼしではないが、プロジェクト発足の話が上がると、自ら手を上げ立候補したのだった。

しかし、今まで生きてきて、真剣に考えたことがなかった難題に、頭から煙が出そうなほど苦悩していた。

そこに扉が開いて、父が相変わらずの笑顔で覗いた。

「おっ!エイタやっているな!」

ニコニコしながら父は普通に入ってくる。

息子は悩むのを止めて、父に苦笑いしながら言った。

「父さんは透明人間ですか?なぜ、いつもすんなりここまで来れるのですか?」

父は笑いながら言った。

「ハハハ、父さんもここではすっかり有名人さ。この名札と、この二枚目のマスクがあればオールオッケイ!」

息子は呆れながらも笑顔で言う。

「はいはい。それより会議の案、考えたの?」

父は不敵な笑みを浮かべながら言った。

「ふふふ。凄いの思いついた。聞きたいか?」

息子は興味津々に尋ねる。

「なになに?こっそり聞かせてよ」

父は自信満々に言った。

「中年以上の男女は強制エアロビクス!」

息子は驚きと呆れで何も言えない。

(・・・)

父は続ける。

「そして、父さんは・・・エアロビの先生になる!」

ハイ、ハイと足を上げる父を見て、またしても息子は固まった。

(・・・)

父は言った。

「どうだ!名案だろう!さすがは俺だ。ああ楽しい。こんな楽しい毎日があったなんて知らなかったな。もうユニコーン様に感謝感謝だ」

息子は呆れながらも、楽しそうにしている父に微笑んだ。

すっかり自由人となった父は、頑張る息子に言った。

「また長官に戻れたのはいいが無理はするなよ。長官の仕事だって激務なのだろうし、ましてや他の事まで背負ってやっているんだから、体壊さないようにしないとな。体大切にしてな。もういい歳なんだから」

すっかり父より年上になってしまった息子は、真剣な眼差しで思いの丈を父にぶつけた。

「今まで僕は、自分の狭い世界だけを生きてきて、自分がどうなるのかだけに意識を集中してきたんだ。正直この国の事など何も考えてはこなかった。将来の事なんて誰かがやってくれるだろう、そういう仕事に就いている人が考えるだろうって。やっと気づいたよ。それじゃあ駄目なんだって。自分もこの国を創っていく一員だったんだって。だから、やれる限りやってみたい。この国に貢献してみたい」

父は微笑みながら息子に言った。

「素晴らしい志だ。父さんはエイタを全力で応援するぞ。でもなエイタ。父さんは思うんだ。この世はさ、何か大きな流れの中にあって、その流れを変えることは容易ではないと思うんだ。俺達ちっぽけな人間ができることなんて、とても小さなことなんだと思う。でも、その小さな存在が手と手を合わせ繋がっていけば、それはとてつもなく大きなものとなっていくと思うんだ。皆が一つになったその時、その流れを変えて新しい世界が生まれてくるのだと思う。だから、より素晴らしい世界を実現する為に、皆が自分らしく生きていかなきゃいけない。皆が日々笑えなきゃいけない。そして、皆が感謝できるようにならなきゃいけない。その為にはまず健康であることだな。健康であって、動くことができる、これは俺達元老人にとってはことさら重要なことだ。エイタ、お前にも当てはまることだ。仕事や志も大切だが、何より健康があってのことだ。だから無理せず、体を動かして毎日楽しんで行こう」

元老人の父の言葉は重く、いかに当たり前に動けることが、どれほどありがたいものかが、嫌というほどに伝わったのだった。溢れる思いが、息子の心に強く突き刺さったのだった。


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