第21話

和夫は家に帰ってきていた。

広すぎる家で、何をするでもなく、ただ漠然と過ぎていく毎日だった。

一時、妻が生き返っているのではと、姥捨てが行われた山をいくつか回ってみたが、痕跡などは結局見当ることもなく、それでも諦めきれず、色々な人に声を掛け、前に亡くなった者が蘇ったケースがないか聞いて回ったが、そのような例は全く無いようだった。やがて諦めて家に帰ってきたのだった。

和夫がぼーっと庭を見ていると、玄関が開く音と同時に声が飛んできた。

「和夫さん居るかい?」

駐在さんが、玄関を開け声を掛けた。

「おう!居るよ。上がんな」

和夫はできる限り元気に答えた。

駐在さんが心配して、毎日のように顔を出してくれていることに感謝していた。

駐在さんと和夫はすっかり仲直りしており、昔のような関係に戻っていた。

縁側に腰を下ろすと駐在さんは言った。

「毎日家の中に居てもつまらんでしょ」

和夫は相変わらず庭を見ながらそれに返した。

「ふふ、いざ若返ってみても、すぐにやりたいことなんか見当たらないもんだな」

突然、駐在さんは真剣な面持ちで和夫に言った。

「和夫さん。実は俺、警察辞めようと思っているんだ」

和夫は驚いて言った。

「なんで?せっかくやってきた仕事を辞めるって。警官になるの夢だったんだろ?」

駐在さんは、覚悟の目を和夫に向けて答えた。

「子供の頃の夢だった警察官になった時は、嬉しくて嬉しくて、これは絶対天職だから最後までやりきるぞって思ってきたけど、今回の出来事で、自分の中に新しい芽が出てきたんだ。これからのこの国に、自分が貢献できる事は何だろうって。皆一丸となって歩んで行く中で、自分ができる事、自分がやりたい事って何だろうって考える中で、一つ、確信を持てるものがあった。それが農業だった。何となくだけど、これからこの国の農業はとても重要になってくるような気がして、それなら俺もチャレンジしたいって心から思えたんだ。それで和夫さん、俺を弟子にしてくれないか?あんたの農業の腕は村一番だ。いや、日本一かもしれねえ。だから、こんな素人の俺だけど、俺に農業教えてくれないか?」

和夫は、まさかの展開に驚いて、体を硬直させながらも涙を流していた。

腕で涙を拭くと、相変わらず庭を見ながら力強く言った。

「俺の指導は厳しいぞ!昭和の頑固さ満載の指導だ!それでも、付いて来られるかい?」

駐在さんは両手を床につけると頭を下げた。

「はい!宜しくお願いします」

和夫は満面の笑みを浮かべながら決意した。

(よし!やってやろう。この国の農業を取り戻してやろう。いつか夢見た、自国の農産物でまかなえる国になれるように、この命を懸けてやってやろう)


自分一人だけ若返ってみても、既に愛した人は居ないこの世界に、なんら希望を見出す事などできずにいたが、この時代の大きな流れは、自分を放っといてはくれなかった。

自分のやるべきことが与えられたと感じた和夫は、これから忙しくなるなと、やるべきことを見据えるのだった。


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