第7話
首相官邸の執務室で、首相である伊佐美ケンゾウは思案していた。
そこに秘書が一礼して入室すると、足早に伊佐美の側に寄って一枚の紙を差し出した。
「お待たせしました。こちらが現状です」
伊佐美は紙を受け取りながら答えを促した。
「で、現状はどうですか?」
秘書は手に持った資料に目を通しながら、もっとも求められているであろう答えを伝える。
「進捗状況ですが老人全体の15%ほどです」
その言葉に伊佐美の眉が動いた。
「予想より鈍い。何が問題なのですか?」
だんだんと鋭さが増してくるやりとりに、秘書の緊張感が増していく。
「現在、主に寝たきり老人を対象としており、在庫は十分に捌けたと思われます」
伊佐美は資料を見つめ少し考えると一言言った。
「受刑者はどうですか?」
秘書は意外な言葉に一瞬返答が詰まるが、スグに我を取り戻し伝える。
「まだ手を付けていません」
伊佐美は無表情のまま伝える。
「至急廃棄して下さい」
秘書はメモを取りながら返答をする。
「かしこまりました」
伊佐美はさらに指示を出す。
「あと認知症や病院でうろついている者も即刻捨てさせて下さい。お金渡したら喜んで動いてくれる団体、個人がもっとあるはずです。活用して下さい」
そう伊佐美に見つめながら言われ、秘書は背中に悪寒が走った。
「か、かしこまりました」
突然、伊佐美は笑顔になると最後に一言付け加えた。
「わかっていると思いますが、年齢制限は関係ありませんから。この国に役立たないモノは全て捨てて下さいね」
あまりの恐怖に秘書は返答できず固まってしまった。
そこに別の秘書がノックをして入ってきた。
近くによると、固まっている秘書を横目に伊佐美に急用を伝える。
「失礼します。国連よりこの度の法案に関し、人権侵害との指摘を訴え、首相との面会を希望されております」
伊佐美は、全く動じることなく足を組み替えると窓を見ながら言った。
「また金の要求か。まあいい、目障りだからもう少し渡してやるか。あとアメリカ様にも包んどかないとうるさいからな。その辺の準備をお願いします」
「かしこまりました」
後にきた秘書はそう返答をすると足早に退室していった。
伊佐美がくるりと椅子を回すと、固まっている秘書を見つめた。
それに気づいた秘書は自分を取り戻し、一礼をすると足早に退室していったのだった。
一人になった伊佐美は、また思案の続きを始めた。
(急がないと間に合わなくなる。なんとしても私の任期中に実現しなくては。これはこの国にとって、いや人類にとっての大変革なのだ。人類が新たなる次元に行くためにはどうしても避けられない道だ。やがて、この国で行われていることは世界へと波及していくだろう。なぜなら同じ問題を必ず抱えているからだ。その問題を解決できるのはこの方法以外にない。戦争も起こさず、ウィルスも撒かない。さらには飢饉も発生させないこの方法こそ、人類の大きな流れとして必ず受け入れられるはずだ。そのためにはどんな手段を使っても、急いで余計なモノを削ぎ落していくしかない。必ず、必ず実現してみせる。絶対に実現するのだ)
そう、あらたに決意した伊佐美は、受話器を上げると新たな指示を伝えるのだった。
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