第8話

若返った事でなんなく下山してきた元老人たちは、山から一変した辺りの風景に安堵の声をあげた。

「おう!やった着いたぞ!みんなよく頑張ったな!凄いぞ!」

すると男は笑いながら答えた。

「おいおいおい!俺たちはもう老人じゃないんだぞ(笑)これくらいの山なんてこの体なら、なんてことないさ」

それに合わせてみんな笑った。

あらためて下山した喜びを噛みしめていると、一人の男が声を上げた。

「あれ?ここ俺の村じゃねえか。なんだよ、この山小さい頃から見てた山じゃないか。もっと洒落た山に捨てられないものかね」

それを聞いた別の男が言った。

「おたくさんの故郷なら、どっか休憩できるところとかあるのかい?こんな格好だし、なんせ靴も履いていないしな」

施設や病院から連れ出されたので、パジャマ姿で靴も履いていなかった。

太郎も、服装は皆と違ったが、家に居た状態で連れ出され、同じように靴を履いていなかった。

若さで何とか下山したが、皆足の裏が痛くてしかたがなかった。

「よし、俺の家があるはずだから行ってみよう。ただ、俺が施設に入っている間に、子供たちが処分してなきゃいいけど」

ゾロゾロと隊列を組んで行進していくパジャマ集団は、畑が広がる田舎の風景とやっぱりミスマッチで違和感たっぷりの存在だった。

しかし、さすがは田舎と言いたくなるくらい誰とも遭遇することはなく、先頭を行く男が声をあげた。

「おお!あった。まだ残ってたよ。やったな、これで一休みできるぞ!」

みんな安堵の声を漏らしつつ、近づいてくる男の家に驚きが広がっていく。

「ちょっとおたくさんの家、ずいぶんと立派に見えるけど、もしかしてお偉いさんかい?」

男は顔の前で手を振りながら言った。

「いやいやいや、ここいらじゃこんな家普通だ。ちょっと畑やっていたじーさんから代々受け継いだだけだ」

そう言われても、あまりの敷地の広さに皆驚いていた。

「家が何個もあるんじゃないかい?」

男は笑みを浮かべながら答える。

「あれは倉庫だ。畑道具入れたり作業したりする時用のさ。まあ昔は住んでた時もあったみたいだけど」

母屋の玄関前までくると男は扉を開けようと試みた。

ガチャガチャと力任せに引き戸を引いた。

「あれ?やっぱ鍵掛かっているか。くそっ!」

みんな黙って見つめる中、男は不敵な笑みを浮かべながら言った。

「大丈夫。こんな時用に鍵を隠しあるのさ。ふふふ」

別の男が感心した表情を浮かべながら言った。

「凄い!準備周到だ。さすがこんな家に住めるくらいだから頭が良いんだな」

男はニヤニヤしながらそれに答える。

「いや、実は老人だった頃に鍵を無くすことあったから、隠して置いておくようにしたのさ」

そう言って、男は縁側の所でしゃがむと下に手を突っ込んだ。

しかし、探してもみつからない。

「あれ?無いぞ、絶対ここに置いてたはずなのに。まさか、あいつら持っていったのか」

皆落胆の表情を浮かべながら地面に座り始めた。

「なんだ、ここまできて家入れないかい?何とかならんもんかね」

すると男は立ち上がり皆に言った。

「ああ、もう面倒くせい!ちょっと下がっててくれ」

そう言うと男は手に石を持った。

皆今からやりそうなことが浮かびうろたえ始める。

「ちょっ!そこまでしないでも、もうちょっと探すとか、誰かに連絡するとか・・・」

男は全く聞く耳持たず、扉のガラス部分を石で叩き割った。

バリン!との大きな音が響き皆一瞬目を瞑ったが、男は割れたガラスを綺麗に取ると、手を突っ込んで鍵を開けた。

玄関扉を引いて開けると男は笑顔で皆に言った。

「ほら開いたぞ!足元のガラスに気を付けて入ってくれ。いや~久々の我が家、ただいまっと」

皆、男の行動に驚きつつも、休める場所が確保できた安心感でいっぱいだった。

「お邪魔します」

ぞろぞろと家の中に入っていった。

長年人の気配を失った家の中は、埃と昆虫と小動物の住処となっており、まずは手分けして全ての雨戸を開けたり、雑巾がけをすることから始めたのだった。


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