第17話

老人達の一掃に成功した党首の伊佐美は、次のステージを見据えていた。

これからのこの国は、人口ピラミッドのつりがね型を保ち続けていかなくてはいけない。

過度に少子化を解消させようと過熱させれば、その後が続かなくなってしまい、それでは元の木阿弥だ。

あくまでも、じわりじわりと増える形を作らなくてはいけない。

そのためには、全ての国民を政府のコントロール下に置き、テクノロジーの力を借りて人口を調整できるようにしていくしかない。

もう二度と無計画な国造りなどしてはならないのだ。

しかし新たな問題も起こっている。

一部の世代の人口が急激に増えたことだ。

身元の良くわからない者達が急激に増えた。

とりあえずは衣食住を与え、党の管理下に置いてあるが、いまだ何者なのかもわかっていない。

このままこの国の国民と認めれば、一部の世代への偏りが出て、いずれ負荷となって降ってきてしまう。

それでは、今まで私が決死の覚悟で行った全ての事が、何の意味もなさなかったことになってしまう。

それだけは絶対に阻止しなければ。

いざとなれば、働き盛りの世代を必要としている国に売るという方法もあるかなと、名案が浮かんでいるところに扉がノックされた。

邪魔をされた伊佐美は不機嫌気味に返事をする。

「はい」

扉が開いて秘書が一礼して言った。

「失礼します。警察庁長官の浅沼様が退任のご挨拶に参られました」

伊佐美が嫌そうな顔をする。

「挨拶?」

伊佐美は考えた。

(そんな予定、聞いてないぞ。何でわざわざ退任の挨拶なんかしに来るんだ。あれだけ党の方針に逆らっていた男が。さては何か企んでいるのか?だが、何ができる、あんな男一人で。自衛隊ならまだしも、警察という組織なんぞしょせん政府には逆らえない。まあ、あれこれ考えるのも時間が勿体ない)

伊佐美は秘書に尋ねる。

「この後の予定は大丈夫ですか?」

秘書はすぐさま答える。

「はい。10分程でしたら」

それを聞いて伊佐美は言った。

「5分で終わらせて下さい」

秘書は返事をすると一度扉の向こうに下がり、再度、浅沼達を連れて入室してきた。

ぞろぞろと、複数人の制服を着た警察関係者に伊佐美は違和感を感じ取ったが、首相らしく堂々と振る舞った。

「これはこれは、大名行列のような大人数で、結構なものですな浅沼さん」

浅沼は一礼すると伊佐美に言った。

「この度は任期を満了することができず、途中退任してしまうことをお詫び申し上げます」

伊佐美は机の上で手を組み言った。

「ご苦労様でした。ゆっくりと休んで下さい」

浅沼はそれには答えず言った。

「こちらに居る者より一言、伊佐美さんにお伝えさせていただきます」

伊佐美は咄嗟に秘書の顔を見た。

秘書はスグにSPを呼ぼうと動いたが、制服を着た若者に制止された。

伊佐美は浅沼を睨んで言った。

「何の真似ですか浅沼さん。こんなところまできて。スグに異変に気付いてSPが駆けつけてきますよ」

すると制服を着た若者が前に出ていった。

「物騒な話しは止めとこうかケンゾウ」

聞き捨てならない言い回しに伊佐美は反応する。

「おたくさんは?」

若者は堂々と胸を張ると言った。

「俺かい?俺は世直し人だ」


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