第18話
緊張感が立ち込める首相官邸執務室で、伊佐美と浅沼達は睨み合っていた。
そんな中、一人の若者は余裕な表情で伊佐美に語りかけた。
「どうだい?日本のトップしか座れない椅子に座った気分は?眺めはどうだい?そこから見えるこの国はその目にどう映っている?」
伊佐美は怪訝な表情を浮かべ若者を見ていた。
一歩前に出て若者は続ける。
「姥捨てとはかなりぶっ飛んだ策だった。お見事とは言えないが、その実行力には感服する」
別の若者が声をあげる。
「こいつが行った事は単なる殺人だ。愚策中の愚策で、この国の歴史の汚点だ」
周りの者が同調する。
「そうだそうだ」
前に出ている若者が凄みを利かせ言った。
「他に方法があったのか?追い込まれたこの国を救う方法があの時、他にあったのか?誰も何もせず見て見ぬふりを続けた結果、この世代にツケを回してしまった。しなくていい決断までさせてしまったんだ!」
伊佐美は呆気に取られ、何も言えず見守るだけだった。
若者は伊佐美に優しい表情で言った。
「良く決断して皆の上に立ったな。立派になったぞケンゾウ。多恵子は元気か?」
伊佐美の仮面がゆっくりと崩れていく。
党首として、首相として、作り上げられた伊佐美ケンゾウという仮面が崩れていった。
「え?と、父さん?」
制服の若者達も驚きの声をあげる。
「なんだなんだ石田さん?父さんってあんた、もしかして、あんたの子供さんかい?」
石田は笑みを浮かべながら言った。
「すまんすまん。俺も最初確信を持てなかったけど、この部屋で見た時に間違いないって確信したよ」
制服の若者はそれでも食い下がる。
「いや、でも苗字違うじゃない?」
石田は少し照れたような表情で言う。
「こいつは俺の恋した女性の子だ」
制服の若者達は驚いた。
「えーーーー?!」
ハハハと豪快に一つ笑い、石田は伊佐美を見つめ言った。
「さあケンゾウ!過ぎた事はもう済んだことだ。次に進もう。この国を創り直すんだ」
すっかり仮面が剥がれた伊佐美は子供のように素直に言った。
「駄目だよ。僕には、壊すことしかできない。僕の考えでは、この国を本当の道に向かわせるなんて無理だよ。父さんがやったみたいな強い国造りなんて僕には無理だ」
石田は優しい笑みを浮かべ言った。
「大丈夫だケンゾウ。一人じゃない。俺達がいる。俺達がお前を後ろから支える。新旧織り交ぜて新しい国を創るんだ。同じ轍は絶対に踏ませない。必ず、希望ある未来を創ってみせる」
伊佐美は涙を浮かべ石田を見つめた。
「父さん」
別の若者が言った。
「でもよ石田さん。山に捨てられて、若者に戻った奴らが納得してくれるかね?」
石田はそれにも自信満々に答えるのだった。
「大丈夫だ。俺らの世代を黙らせる方法は考えてある。それでケンゾウ、一つ三つ、いやもうちょっとお願いしたいのだが」
懐かしい石田の言いっぷりに、伊佐美も懐かしく返す。
「いや、多いな」
石田の豪快な笑い声が、室内に響き渡ったのだった。
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