第11話
しかし、絶望で支配される薄暗い家の中であっても、微かな希望に気づいて声をあげるものもいた。
「・・・でも、俺らは若返った」
その声に涙を溢す者達が顔を上げた。
皆一様に声を上げ始める。
「そうだそうだ!なんだ、もう解決しているじゃないか!」
「そうよ!やったわ、一件落着じゃない。嫌だ、びっくりさせないでよ、ねえ」
どんどん泣き顔から笑顔に変わっていく。
太郎も笑顔になりながら言った。
「全国で同じようことがされているなら、若返りが起きているかもしれない」
男が疑問の声を上げる。
「でも、どうやって俺ら生き返えれたのかね?」
別の男が即それに答えた。
「そ、そりゃあ神のご加護ってやつで・・・」
次々と声が上がるのを制し太郎は語り出した。
「あ、あの皆さん、私見てました。皆さんを生き返らせたのは光を纏ったユニコーンです」
男が不思議そうな顔で言う。
「ポップコーン?」
女がそれを正す。
「ポップコーンじゃなくてユ・ニ・コーン!わかる?伝説の角生えた白いお馬さん」
それを聞いても男は良くわかっておらず、とりあえず答えた。
「白い馬?芦毛の馬か、そりゃ珍しいな」
女は呆れて何も言えない。気を取り直し太郎に話の続きを促した。
「でも、ユニコーンがどうして私達を生き返らせたのかしら?しかも若返らせて」
その問いに太郎は答える事ができなかった。
そのかわり、山に捨てられ、折り重なり合うマネキンのような老人達の姿が、太郎の頭に浮かんだのだった。
男はふと気づいたように何気ない感じで太郎に尋ねた。
「ところでおたくさん、俺らと感じが違う気がするけど何で山に居たわけ?」
太郎は体をビクッと震わせた。
男は純粋な疑問をぶつける。
「着ているものも寝巻じゃないし、まさか、寝たきりじゃないのに捨てられのか?」
元来そんな言葉では動じるような人間ではなかったのだが、自分でも思ってもみない出来事に心が乱れていた。
答えに窮し太郎は口ごもった。
「・・・あの、それは・・・」
そこに家の持ち主が口を挟んだ。
「まあ、色々あるもんだ。それぐらいにして・・・」
その時、突然家に警官と複数人の中年の男達が上がり込んできた。
「大人しくしろ!警察だ!」
皆突然の出来事にビクッとなったが、すぐに冷静になる。
「集団で人様の家に不法侵入して、皆逮捕だ!」
後ろの複数人の中年達も声を上げる。
「そうだそうだ!」
それを座って聞いていた男が持ち主の方を向いて尋ねた。
「ああ言ってるけど。ここ、あんたの家じゃなかったのかい?」
持ち主はその姿を確認するなり、笑顔で警官に話しかけた。
「おお!駐在さん久しぶりじゃないか?いやあ、これは助かった。色々やらなきゃいけないことがあって、これから行こうかと思っていたんだ」
しかし警官は怪訝そうに見つめて言った。
「動くな!既に県警に応援を要請しているからすぐに到着する。観念して大人しくしろ!」
持ち主の男が、ついにキレて立ち上がり警官に突っかかった。
「おい!駐在!随分立派になったと思ったら、人の顔もわからなくなったのか?ええ?お前がこの村に初めて来て、何もわからず途方に暮れている時に、手取り足取り教えてやったのを忘れたのか!」
偉そうな若者の犯罪者に言われ警官もカチンときた。
「おいおいおい、誰がおまえさんみたいな余所者にいつお世話になったんだ?いくら若者でも許さんぞ!」
持ち主は完全に頭にきた。
「てめえ・・・!もう頭にきた表に出て勝負だ」
警官に掴みかかるのを皆は必死で止めた。
警官も持ち主に掴みかかろうとするものだから、後ろの中年達が必死に止めに入る。
「こらこら、駐在さん!今県警が来るから、待って、待って」
警官は怒りの形相で掴みかかりながら叫んだ。
「お前みたいなのは絶対許せない!俺の、俺の人生の恩師の家に忍び込んだあげく、さらにはその人を名乗りやがって・・・亡くなった恩師の仇をとってやる!」
持ち主の怒りが頭の天辺から突き抜けて、遥か彼方に吹っ飛んで行って一瞬頭が真っ白になった。しかし何とか我を取り戻し心の声を叫ぶ。
「・・・まだ生きているわ!馬鹿野郎!」
ワイワイ取っ組み合いを繰り返していると遂に県警が到着した。
「こら!観念しろ!制圧、制圧」
数十人の警官がなだれ込んできて、場は一気に沈静化したのだった。
その後全員警察署に連行されることとなった。
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