第12話
全国各地で奇妙な事件が勃発していた。
ある傷害事件では、30代と思われる男性が、介護施設の職員を素手で顔面数発殴って御用となったが、持ち物を一切持っていなかった男が語る身元を、センターに照会をかけたところ90代男性がヒットした。この老人は以前この施設で寝たきりとなっており、先ごろ施行された姥捨て法によって山に”逝った”とのことだった。男の語り口には何ら違和感が無く、スラスラとこの老人のことを詳細に語るのだった。
また、ある事件では、30代と思われる見知らぬ女性が、突然住宅に侵入し、その住人の名を呼びながら泣きじゃくったあげく、住宅に居座ったことで、家人が警察に通報、駆け付けた警官に御用となった。
こちらも、女性が語るのは80代女性の内容で、この老人は先程の住宅の家族で、やはり姥捨て法によって山に”逝った”とのことだった。
こういった事件が各地で頻発しており、警察庁としてもこの奇妙な事象に頭を悩ましており、対応策について、緊急の幹部会議が開催されたのだった。
長官の浅沼が幹部達に語りかけた。
「現在、容疑者の身元が不明という事件が、全国で多数発生している状況についての報告をお願いします」
幹部の一人が立ち上がり皆に説明を始めた。
「お配りの資料にも書いてありますが、先週までに全国で身元不明人による事件が約150件発生しております。また、職質による保護も100件を超えており今後も増えてくると思われます」
また、別の幹部が立ち上がり身元不明人について説明を始めた。
「身元不明人についてですが、皆一様にそれぞれ老人の内容を語っており、その老人達を調べたところ姥捨て法の対象者となっております」
浅沼はその部分について掘り下げる。
「それぞれ語る老人との接点は何か分かっていますか?」
幹部は困惑しながらも誠意を持って答える。
「現在のところ、身元不明人と老人を結びつける確かなものは見つかっておりません。老人の家族にも確認しましたが、全く知らないとのこと。ただ当人が着ていたパジャマに老人の名前が縫われており、家族に確認しましたところ老人本人のもので間違いないとのことです」
浅沼は何かに気付いたのか、嫌な顔をしながら言った。
「まさか、山で老人達の身ぐるみを剥がしてきたんじゃないのだろうねえ?誰か山に行って確認したの?」
幹部達は返答できず言葉に詰まった。
例え警察であっても、姥捨てが行われているであろう山には近寄り難かった。
場内が重い空気になっていく中、ある県の幹部が挙手し起立をすると語り始めた。
「私どもの県で、先日十数人の若者が不法侵入で一斉に検挙されたのですが、皆先程から上がっている身元不明人でして、対応した者からの話しによりますと、どうも奇妙な事を言っておりまして・・・」
浅沼は面倒臭そうに話の先を促した。
「何?奇妙な事って?」
幹部は直立姿勢で奇妙な事を言い出した。
「若者達は、姥捨てで捨てられた老人達でユニコーンによって蘇ったと」
浅沼は思わず素っ頓狂な返答を返す。
「ユニコーン?」
幹部はハンカチでおでこを抑えながら恐縮した。
「は、はい。何度尋ねても、聞いてもそのように」
浅沼はふざけたことを言い出した幹部に詰問をする。
「そのユニコーンが人を蘇らせれるとは初めて聞いたけど、そんな伝説とかあるのですか?この神の国日本で一度も聞いたことが無いし、何で日本の神様じゃないの?」
幹部はますます汗が噴き出し何も言えなくなった。
「そ、それは・・・」
茶番に構うのが疲れたかのように浅沼は表情を変えると皆に言った。
「とにかく、データーが足りない。次回までにもっと詳しいのを集めて報告して下さい」
何ら進展もないなか、幹部会議は閉会したのだった。
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