第10話

強い眼差しを浮かべた男は、皆を見渡すと力強く言った。

「俺は断じて俺達を山に捨てたやつらを絶対許せねえ。人間である俺達が何であんな目に合わなきゃいけなかったんだ!」

そうだそうだと複数声があがる中、怒りの疑問が飛ぶ。

「警察は何をしているんだ?子供らはどうした?なんでこんな人数が山に捨てられたんだ」

女は希望の声をあげた。

「今頃家族が心配して探しているはずよ。早く連絡して安心させてあげましょうよ」

そうだそうだと、何も知らずに声をあげるものがいることに太郎は驚いていた。

たぶん寝たきりとなって、世の中がどうなっているのか知らないようだ。

太郎は悩んだ。

しかし、自分が皆に事実を伝える以外にないと決意し、勇気を持って声を上げた。

「あ、あの皆さん。私から皆さんにお伝えしたいことがあります。どうか気を悪くせずに聞いて下さい」

なんだなんだと皆が太郎を注目した。

太郎は唾をごくりと飲み込むとゆっくりと話し始めた。

「実は、現在、日本再生党という新しい党が政権をとっております」

驚いた男が声をあげる。

「日本再生党?どこから湧いてきたんだ?自由民党は?」

太郎は手で落ち着いてと制しながら続けた。

「この日本再生党の主軸は全く新しいメンバーです。猛烈な勢いで拡大していって、ついには政権与党となってしまったのです。自由民党は野党となって存続しておりますが、極めて弱小化してしまいました。かつてあった他の党は、日本再生党に吸収され一大勢力となっているのが現状です」

また別の男が声をあげる。

「その日本なんちゃら党と、俺らが山に捨てられることのどこに関係があるの?」

太郎は真剣な眼差しでその男を見つめると言った。

「日本再生党が発足時、掲げた約束はただ一つ。それが老人問題の完全解決だった」


(・・・)

皆電気が走ったように体が硬直した。

太郎は言葉を紡ぐ苦しさに負けないよう、姿勢を正し続きを話し始めた。

「現在、この国は少子高齢化という難局の中にあり、どんどん増えていく老人を支えるため、働き盛りの若者は酷使され続けている。耐えられなくなった者は海外に行くか、自ら命を絶つという最悪な状況まできてしまった。このどうすることもできない現状を打開しようと現れたのが日本再生党で、希望を失っていた若者たちの最後の光となった」

皆、太郎の次の言葉を待ちながらも、聞きたくない事実が見えるようだった。

「この現状を短期間で変える方法として出され施行したのが、姥捨て法だった」

その衝撃に元老人たちは目を開き固まる者や、口を手で押さえる者、頭を手で抱える者で、この建物に絶望が降ってきた。

男が絶望に抗う様に声を漏らす。

「姥捨てって・・・そんな馬鹿なこと」

太郎はこの緊張感に耐えられなくなりながらも、涙を浮かべながら最後まで伝えるのだった。

「その内容は、寝たきりの者を問答無用で山に捨ててしまうというものです。しかし、奴らの狙いはこんなもんじゃない。老人問題の完全解決とは、全ての老人を対象にしていると思う。つまり、今いる老人全てを山に捨ててしまう・・・」

女が堪えきれず声を上げて泣き出した。

皆打ちのめされたように何も言えなかった。


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