第26話
政府は、これからの日本を創る案を複数掲げ、国民の信任を得るため解散総選挙へと挑んだ。
結果、圧倒的に信任を得ることができ、多くの国民に支持される党として、新たな国創りに全力で臨むこととなった。
また、解散選挙と一緒に首相の伊佐美ケンゾウが辞意を表明し、後任の最有力候補として石田薫の名が挙がった。
国民の信任を得た後、石田は日本再生党の党首に選任され、国会で新しい内閣総理大臣に指名されたのだった。
石田は国会の所信表明演説で国民に向け、魂の言葉を放った。
「この国には八百万の神が在るといいます。数えきれないほどの多くの神が、この国に存在しているのです。この神とは、日本国民である皆さんのことです。皆さんは神なのです。神それぞれに得意があるように、私達一人一人にも得意があります。皆さんの、その得意を発揮できるなら、どんな困難も乗り越えていけます。この国を創って行くのは政府ではありません。日本国民である私も含めた皆さんです。私達がこの国を創造するのです。ですから皆さんの得意を最大限発揮させて下さい。
政府として掲げた案は、あくまでも形式的なものです。
もちろん、適当に皆さんに提示したものでは決してありません。
この世界は、常に変化しながら流れて行ってます。極端な話し、昨日まで通用したものが今日には全く通用しないということが起こっても、何ら不思議ではありません。
ですから、10年後、20年後と未来に備えても何の意味もなさないこともありえるのです。
ですが、政府の仕事ととは、常に国民の皆さんに、この国の行先を示していく所でなくてはならない。何かに備え、例え、不測の事態が起きたとしても、何ら動じることなく、平然と国民の皆さんに、未来を示していかなくてはいけないと、私は思っております。
だが、何度も申し上げる通り、この国を創造するのは皆さんです。国民一人一人が自分らしく生き、得意を発揮できた時、そこにある喜びや、情熱が希望という光になって、この国を包んでいくのです。やがてその光は、倒れた人に手を差し伸べ、涙する人の肩を抱き、誰かを想う気持ちとなって、人から人へ伝わっていきます。もう、誰一人見捨てることなど、この国から無くなるのです。
私は、この人生を、何ら悔いなく貫いて生きれたと、笑顔で終わっていけるのだと思っておりました。
確かにあの時、そうやって終わって行ったんだと思います。
しかし、今こうして若返って新たな人生を歩んでみると、不思議なもので、あれほど悔いのなかった人生に疑問符がついてしまった。情けない話だが、私には悔しさがあります。
豊かになるためにと、長生きするためにと、もっともっと、早く早くと求め続けていくなかで、大切なものを見失ってしまいました。よくわからない幻想に躍らせられ、気づけば街中には粗悪品と不健康なもので埋め尽くされ、便利とは名ばかりものが溢れ、やがて考える力が失われると、人々は孤独となり、本当に大切なものがこの国から失われていきました。
あの頃の我々は、少し急ぎ過ぎていたのかもしれません。
だからこそ、今の私だからこそ、思うことがあるのです。
自分らしく生きたい。
自分らしい速さで、自分らしい言動で、自分らしい場所で生きていたい。
一日でも多く、自分らしく生きることができるなら、苦しむ人に手を差し伸べることができます。
自分が満たされていれば、困っている誰かを助けられるのです。
誰かに手を差し伸べることに、何の疑問も躊躇も不公平さも感じなければ、この国から困難が消えて無くなるのです。
この国が抱えた困難の本質とは、無関心なのです。
それは、自分が満たされていない人々で、溢れてしまったことが原因なのです。
自分らしさを無くした人々を惑わす、情報や物が散乱する現代において、自分らしく生き抜くことは容易な事ではないかもしれません。
でも、負けないで下さい。諦めないで下さい。
何度も何度も立ち上がり、自分らしさを貫いて下さい。
この国には、あなたを取り戻せる場所が必ずあります。
山、川、海、空、星、月、風、匂い、音、色、あなたを守ってくれている場所があるのです。
負けそうになったら、何度も大切な場所に戻ればいいのです。
あなたの光を取り戻せたなら、その光を皆に見せて下さい。
きっと、たくさんの勇気を与えることでしょう。
あなたが一日でも多く笑顔でいれるなら、老人問題なんて、少子化問題なんて、どんな問題だって起きたりしないと断言できるのです。
だから、自分らしく生きて行きましょう。
自分で生まれて良かった、この国に生まれて良かったと言って生きていきましょう。
次の世代にも、ワクワクを届けてやりましょうよ、ねえ皆さん!」
石田が放った魂の言葉が、この国に生きる人から人へと伝播していく。
やがてそれは、まるで手と手を繋ぐように心が一つとなり、大きな日の丸のような円となっていった。
この国に流れていた大きな流れが今変わった瞬間だった。
新しい日の光が、この国を力強く照らしたのだった。
ユニコーンは富士山の山頂からこの国を見渡すと、安心したかのようにその姿を消したのだった。
令和 姥捨て山 遠藤 @endoTomorrow
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます