第4話

忙しく事務作業に追われる中でも、加奈子は事務所に帰ってきたミキヤに声を掛けた。

「ご苦労様。大変だったでしょ?腰、大丈夫?」

ミキヤは笑顔で答えた。

「うん、なんとか無事完了したよ」

冷蔵庫から麦茶ポットを取り出すと、コップに注ぎながら一連の作業を思い出し、加奈子に伝えた。

「しかし眠っている人間ってあんなに重いものなんだね。結構力には自信あったけど、もっと鍛えておけば良かったって思ったよ」

そう言って麦茶を飲んでいるミキヤに加奈子は言った。

「今回の人、昔は会社で相当偉かったみたいだけど、ずっと家族を大切にしてこなかった罰が下ったのね」

加奈子を見てミキヤは言う。

「過去の栄光だけでいつまでも偉そうにしているからだね。今回の連絡をしてきたのが娘さんだったと聞いたらショック死しちゃうかも」

加奈子は俯きながら言った。

「娘さん、話を聞きに会った時には泣いてた。苦渋の決断だったみたい」

ミキヤは窓の外を見ながら答えた。

「可哀そうだよ。娘にそんな判断させなきゃいけないなんて」


加奈子は少し考えるとポツリと言った。

「でも、私も老人になったら同じことされるんだろうな・・・」

ミキヤは飲み終わったコップを置くと、確信を持って言うのだった。

「だから今、この国の問題を解決してしまおうと党は頑張っているわけさ。絶対に解決してみせる。僕らが老人になる前に安定した良い国にしてやるんだ。さあ、仕事仕事」


日本再生党の支部は、全国各地に置かれていた。

党のホームページには老人に関する相談窓口がある。

老人本人からの連絡もあれば、家族からの相談も受ける。

電話口で生きる希望を失っていると嘆く老人がいれば、面会したのち、家族の有無、本人の健康状況及び生活状況を確認し、家族にも最終確認したのち、解決方法が見出せない場合は、泣く泣くであるが、ご自身の意思で山に入っていただくというのが党の方針だ。

さらに、家族からの相談の場合、聞き取り調査ののち、老人への面会で改善方法の提案、指導を根気よく続けつつ、家族間の絆の修復を全力で応援するというのが党の方針だった。


「だった」とは、簡単に言えばホームページの掲載文はあくまでも表向きなもので、実際は相談を受け付けたら、問答無用で調査員という名ばかりの「引き出し屋」が現地に赴き、強引に家から引きずり出したり、まだまだ元気な老人には睡眠薬等で眠らせ拉致し、眠っている間に山に捨ててくる方法が主流となっていた。

中には従わない老人に暴力を平気で奮うものもいた。

さらには、まったく関係ないものが、独居の老人の情報を党に流して小遣い稼ぎをするものまで現れた。

こういった活動に使われるお金は、献金や募金のほか税金まで当てられる始末だった。

いつしか国中の目が老人に向けられてしまい、いつ自分がターゲットになるのか分からず、老人たちは戦々恐々の毎日だった。



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