第15話
国会議事堂の前で、プラカードを持って声を上げる者達がいた。
「家族を返せ!政府は犯罪集団!」
警官達が取り囲み見守っている。
拡声器で大声を上げて訴える好美は、施設から無理やり連れ出され行方不明となった父を探していた。
姥捨てに使われる山は政府関係者以外には極秘となっており、ネットで情報収集してもなかなか掴むことができなかった。
ましてや、世間は老人を目の敵としており、例え知っていたとしても、老人を必死で探す者に教えるわけがなかった。
一時期、途方に暮れ絶望の中にあったが、ネット上の一部で現政権を批判するグループがあることがわかった。
さっそくこのグループに入り、活動を開始すると、少なくとも複数人も同じように、大切な家族が連れ出され行方不明になっているということがわかった。
何としても家族を安全に取り戻そうと、警察署に行ったり、弁護士に相談したりもしたが、どれも不発に終わってしまった。
このまま何もせず、手をこまねいている場合ではないと奮起し、連日国会議事堂の前で声を上げていたのだった。
「命をなんだと思っているんだ!我々には人権がある。誰にでも生きる権利がある!」
そうだそうだと声を上げながらプラカードを高々と掲げる。
「命を返せ!家族に命を返せ!」
取り囲む警官達は、皆、無表情で見つめている。
まるで自分達とは関係のないことだと、その目が言っているような気がしてならなかった。
そんな目を見ていると好美は嫌な事を思い出した。
ネットで、同じような境遇にあっている人達に向けてメッセージを発信した時のことだ。
皆さぞかし苦しんでいることだろうとの一心からだった。
しかし予想に反し、付いたコメントの酷さに愕然とした。
「この方法以外でどうやって老人問題を解決するつもりだ」
「お前が税金払ってくれるのか?」
「役に立たない老人を処分して何が悪い。本人も喜んでいるだろう」
「若者と老人の命の重さは違うんだよ」
次々と並べられたコメントには誰一人家族を想うものはなく、皆何かに取り憑かれてしまったように、一心不乱に同じ方向を向いていた。
それでも大切な家族の為に、戦うことを止めるわけにはいかなかった。
月日は流れ、それぞれ何も進展が無いように思える中においても、一見変哲もない日常に変化が確実に起きていた。
町から老人の姿が消え、集落から老人が消えた。
この国から老人と思われる存在が、消えてしまったのだった。
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