第14話
「だ・か・ら、俺は高橋和夫だって何回も言ってるじゃない。昭和16年3月5日生まれの巳年だって。どうして信じられないのかな?」
連日聞き取り調査を続けている刑事は、頭がおかしくなりそうで既に限界を超えていた。
頭を掻きながら刑事はイライラを露わにする。
「どうやって信じれるの?あんたみたいな若者に昭和16年生まれって言われて、はいそうですかって誰が言えるんだ。わかったから、もう本当のこと言ってくれよ。もう頭おかしくなりそうだ」
和夫もイライラをむき出しにしながら食い下がる。
「本当のことなんだから、嘘なんかつけねえよ!なんでわざわざ嘘言わなきゃいけねえんだ!」
刑事は、もうお手上げだと言わんばかりに椅子の背もたれにもたれかかると、天を仰いだ。
その時、老人の自宅調査を進めていた別の刑事が入ってきた。
「失礼します。家からこれが出てきまして、ちょっと確認して欲しいことが・・・」
そう言って差し出されたのは、古びた写真アルバムだった。
刑事は受け取ると、付箋が付けられたページを開いた。
そこには、白黒写真で男がポーズを決めていた。
刑事はマジマジとその写真の男を見て、目の前の男を見た。
鮮明ではないが、その写真の男の特徴と、目の前の男の特徴が酷似しているように見て取れる。
刑事は何度も見比べていくうちに、冷や汗が滲んできた。
(こ、こんなことってあるのか・・・)
和夫は懐かしい物が出てきて、嬉しそうに言った。
「おっ!それ俺のアルバムじゃないか。懐かしいな、最近見てなかったから押し入れの奥にしまって、そのままになっていたんだな。どれどれちょっと見せてくれ。おお懐かしいな、一番男前だった頃の写真だ。初めてカミさんに撮ってもらった奴だな。楽しかったな。色々あったけど、毎日一生懸命希望を持って生きていた。必死に、仕事に子育てにと、皆それぞれの役割をがむしゃらに駆け抜けていたな。せっかく子育ても終わって仕事もひと段落ついたから、これから二人の時間を取り戻そうとした矢先に、先に逝きやがってまったく、何てもったいない・・・」
そう言って和夫は涙を流した。
刑事達も何も言えなかった。
すると和夫は、何かに気付いたように顔を上げて刑事達に言った。
「そうだ!刑事さん、俺達が生き返ったように、もしかしたら、あの山でうちのカミさんも蘇っているかもしれねえ。あんなところで蘇ったら、怖くてまた死んじまうかもしれねえ。早く行って連れてきてくれねえか?この通りだ。お願いします」
和夫は、何度も深々と頭を下げた。
刑事達は何も言えず、困惑した表情を浮かべるだけだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます