第2話 運命は戦術学校の資料室で
…
……
………
それから数週間後、戦地から戻った私は周りからの注目、いや嘲笑を受けていた。
「まぁ、それも仕方ない、か……」
仮にも名家の娘が行かなくとも良い戦術学校に進み、更に首席で卒業して新設の大部隊に所属。しかも将軍の副官という実質ナンバー2の待遇。
それなのに、すぐに追放処分。おまけに代わりに副官になったのはその妹。3人の間に何があったのか気になるのはむしろ当然だと言える。
聞けば前回の戦いが中央に高く評価されて、ジェノン要塞への攻略作戦も提案されている噂だ。
冗談じゃない。あの戦いはとても評価の出来ない愚かで悲しい戦いだった。
百年続いているこの戦争は既に大義名分すら失い、惰性で続けていると非難を受けても仕方ないレベルまで落ちてしまった。
そうなると、この戦争を一種のゲームとして楽しんでいる軍人も多数存在する。悲しくて情けない話だけど。
「思い起こせばユーバァ将軍もその内の一人だった。常に新しい戦術や作戦を構築しようとしていた。それ自体は構わないが、彼は2つの大きな、そして許されざる過ちを犯した……」
その一つは基本戦術を古い戦術と軽視している事。そして一番許せないのは味方の損害を一切気にしていない事だ。
常に兵隊をゲームの駒としか考えずぞんざいに扱い、ついには味方もろとも攻撃する命令を出した。彼は超えてはいけない一線をあっさりと越えてしまったのだ。
「私が副官だったら絶対そんな事はさせなかったのに……」
可愛いだけで軍事に無知なリリカが副官となり、ブレーキ役がいなくなったあの攻撃部隊は一体どうなるのだろうか。
「……いや、それよりも今は自分の事を考えないとね」
そう呟きながら私は戦術学校の中にある戦術資料室に入った。
戦術学校。それは戦闘における戦術を中心に、戦争全般について学ぶファイス国の上流学校だ。通常、卒業したら参謀本部での後方勤務、もしくは前線部隊に作戦参謀として着任する事になる。
この部屋に卒業している生徒があまり来る事はない。通常はすぐにどこかの部隊に入り実戦で学ぶ事になるからだ。
そう。つまり私はあれからどこの部隊にも入る事が出来ずにいる。
ユーバァ将軍が手を回したかは知らないけど、それを抜きにしてもいくつかの要因が重なった結果だと思っている。
卒業してすぐに副官としてスカウトされた挙句、即追放された小娘を入れようとは思わないだろう。そもそも私の評判はあまりよろしくない。
――頭でっかちで柔軟性の無いつまらない良家の女
せいぜいこんな感じだろうか。
実務以外での交流は最低限。パーティー等にも参加せず、ずっと戦術研究しかしていなかった。
私は誇りある”守り人”であり、この国を、民を守るのが使命なのだから。
(いきなりの追放は想定外だったけど、戦術学校を卒業した人は必ずどこかしらの部隊の参謀になれるんだ。それまで挫けずに頑張ろう!)
そう思いながら一冊の学術書を手に取った瞬間、一人の男性が資料室に入ってきた。
彼は最初こそ辺りをキョロキョロしていたが、私を見つけるとすぐさま近づいてくる。ここにある本には目もくれず、私が目的なのが一目瞭然な動きだ。
(この人、誰? 一体何なの!?)
思わず正面を向いて身構える私を見て、男性は何かに気づいたように立ち止まり、笑顔を見せながら”ちがうちがう”と両手を前に出して手の平を左右に振る。
「ごめんごめん。ついに君に会えたから思わず、ね」
目の前の男性はそう言いながら嬉しそうな表情を隠さない。
歳は私と同じか少し上、長身で茶髪、メガネをしている。服装は制服でもなければ軍服でもない私服だ。一般人はここに入る事は出来ないから、私と同じく卒業生なのだろうか。
「……で、私に何か用ですか?」
「そうだった。えーと、今は無所属だから候補でいいのかな?」
……この人は私に喧嘩でも売りに来たのかしら?
「初めましてセラ・デ・ファンネリア参謀候補。僕はコーネル。コーネル・V(ヴィ)・レイバック。これからよろしくね」
(レイバック? どこかで聞いた名前ね……)
「で、早速で申し訳ないんだけど……」
その直後、予想にしなかった言葉が彼の口から飛び出してきた。
「僕と模擬戦術戦をしてくれないかな?」
「……はいっ?」
私は思わず呆気に取られてしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます