第5話 金色の肩章とラブコール
* * *
「う~ん。涼しいっ……!」
指令室の扉を開けると涼しい風が心地良い。
模擬戦で集中してて暑さの事なんで意識していなかった。
出てきた私に向けて中央室の人達が拍手をしてくれるけど、生徒からの拍手は熱狂さを感じず、形式的に感じられた。
無理もない。
地味な小競り合いを延々繰り返し、高台奪取でようやく盛り上がると思ったら戦闘を止めて終了。流石に興醒めだろう。
「実戦を経験したらわかるようになるよ」と心の中で呟いてると、先生が小走りでこちらに向かってきた。
「セラさん、おめでとうございます! とても白熱した戦いでした!」
「先生ありがとうございます。でも、私は本当に勝てたのでしょうかね……」
私は中央にある双方の情報が表示されている大地図を注視する。
(やっぱり、そうよね……)
私の索敵外にいた無傷の部隊の駒をいくつか確認出来た。予備兵力という形だろうけど、その数は私よりも遥かに多い。
もしこの部隊を前線に投入していたら、戦局は大きく変わっていただろう。
「それでも、在学中から常に無敗だった彼に勝てたのは大金星ですよ!」
「……やっぱり、現役の軍人なんですね」
そう反応した私を見て、先生は一瞬慌てたような表情を見せた。
やはり、みんな何かを隠している。そもそも今の状況自体がおかしい。でも、模擬戦も終わったから全てコーネルさんに聞けばいい。それだけの事だ。
「……コーネルさんはまだ出てきていないのですか?」
少し離れた指示室Bの方を見ると、鞄を持った知らない人達が慌ただしく出入りしているようだ。
「先生。あの人たちは一体……」
「そうですね。もう少しすればわかると思います」
「……そうですか」
まぁ、いいわ。もうすぐ全てわかるんだから待たせてもらいましょうか。
…
……
………
そして、少ししてから扉が開けられ、そこから長身の男がスッと現れた瞬間、中央室にいた生徒たちは騒めき、先生たちはその人に対して頭を下げる。
「ちょ、ちょっと待ってよ……!」
確かにあの人はコーネルさん以外の何者でもない。しかし、服装が大問題だ。
あれは略式ながら正式な軍服。更に将軍服。そしてあの金色の肩章は紛れもなく王族の印……つまり、王族軍人!?
「またせたね。セラ」
そう言いながらまるで友達に会うように軽い足取りでこちらに向かってくる。
「も、申し訳ございません! コーネル様の事を存じ上げない上に無礼な態度を……!」
思わず深くお辞儀をする私に対して、笑いながら言った。
「そんな事をしなくていいよセラ。レイバック家は遠縁だし訳ありなんだ。それに、今の僕は君と同じく只の卒業生だからね。歳も近いし仲良くしようよ」
「し、しかし……!」
そんな事を言われても、その服装と金色の肩章を見せられて緊張しない人はいない。
「そんな事より言わせてほしい。セラは僕の予想した通り、いやそれ以上の戦術を見せてくれたよ。戦ってくれてありがとう!」
彼からの嬉しい言葉に対して私はお礼を返す。
「い、いえっ! 私の方こそありがとうございました! とても強くて、立派な戦い方でした!」
それを聞いたコーネルさんは嬉しそうな表情を見せる。
「うん。そうだね。とても素敵な時間だったよ」
「……えっ」
それはコーネルさんからの心からの賛辞。「素敵」という言葉に全てが詰まっていると即座に理解する事が出来る。嬉しい。とても嬉しい。
「何より君が命の重さを理解してくれていた事に感激したよ。高台を奪取した後に君の部隊が止まった時、僕がどれほど嬉しかったかわかるかい?」
「やはり高台の守りが妙に薄かったのは……」
「うん。君を試した。ごめんね?」
いたずらっぽく笑う彼を見て、私は悟った
――やはりこの人の掌の上だったか
しかし、それでも不思議と不快感は感じなかった。それは彼が遊びではなかったから。私の事を知ろうと本気で問いかけてきたのを知ってるからだ。
「うん。僕の目に狂いはなかった。だから……」
彼はそう言うと真剣な表情になり、私の目をじっと見つめながら言う。
「セラ・デ・ファンネリア。どうか私の副官になって欲しい」
「…………はいっ!?」
私は予想外の言葉にまた変な声を出してしまった。この人はいつも唐突な事を言ってきて困ってしまう。
「あ、あの。もう一度おっしゃっていただけませんか……?」
「うん、いいよ。……セラ・デ・ファンネリア。どうか結婚を前提として僕の副官になって欲しい」
「まって更に言葉が増えてるし!!」
一気に顔が熱くなった私は思わずツッコミを入れてしまった。
普通はこういう話は正式な場所で改まってするべきだ。なのに、よりにもよってこんな沢山の人の前で……!
私の耳まで赤くなっているだろう顔を見て、この人はまた楽しそうに笑うのだ。
「ハハハッ。ごめん突然過ぎたね。改まって話そう。明日、軍令本部においでよ!」
「…………」
「それじゃ、またね!」
そういうと、コーネルさんは付き人達と一緒に中央室から出て行った。そして一人取り残された私は、周りから好奇と羨望の目にさらされる事になる。
「ちょ、ちょっとどうなってるのよー!!」
私はそう叫ぶのが精一杯だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます