第13話 妹、来襲!・1
「ふぅん。まだこんな旧式を使っているんですね」
「これ、ここでは現役の装備なんだけど」
「そうなんですか!? 私の部隊では見た事ありませんけど」
私は野外陣地の設営を止めて、リリカをコーネル様の所に連れていく事にした。
そのついでに基地の案内もしているが、突然の来訪者にエレキス基地がちょっと騒がしい。
”聞いたか。副官の妹が来ているってよ”
”遠くからちらっと見えたけど、とても可愛かったぞ”
”副官殿の妹なら期待大だな。俺も見たいぞ!”
「……はぁっ。またこの流れか」
姉の私から見てもリリカはとても綺麗で可愛いし、当然男性から人気がある。外見だけならどこかのお姫様かと思えるくらいだ。
更にリリカは社交界にもよく顔を出していて、各方面に交友関係が広い。私とは正反対だ。
それなのに、リリカはいきなり軍人になってしまった。大貴族という権威に釣られてしまったのだろうか。
私はリリカには普通に社交界で成功して欲しかった。そっちの方が幸せになれるのに……
そう思っていると、向こうからラオ君が走りながらやってくる。
何だろうとも思ったけど、その笑顔を見て全てを理解した。子供故の無邪気さが溢れている。
「セラ姉さーん!」
「ラオ君。こんにちは」
「その人が妹さんですね。はじめまして! ワタシは未来の大賢者。ラオ・チャイ・カです!」
相変わらずの自信に溢れた唐突な登場だ。
前線基地にいる少年という、只でさえイレギュラーな存在なのに、その自己紹介は如何なものかと思う。
「はじめまして、ラオ君。私はリリカ・ル・ファンネリアと言います。姉がお世話になっております」
しかし流石にリリカ。普通なら戸惑ったりする所でも、そんな素振りは一切見せずに完璧な態度を少年に向ける。
「リリカさんですね! 流石セラ姉さんの妹さん、とても綺麗で素敵なお姿です! ……?」
そう言いながらも、ラオ君はリリカの顔をじっと見て、困惑したような表情を見せる。
「……ラオ君、どうしました?」
「ううん。何でもないです……。それじゃセラ姉さん、また後でね!」
そう言いながら、さっきと同じく走って元の所に戻っていった。あんなラオ君を見るのは初めて。一体どうしたのだろう。
「……本当に、この基地は何なの!? あんなガキまでいるなんて信じられない!」
ラオ君が遠くに行ったのを確認して、妹は小言で悪たれる。これさえ無ければいいのに。
「リリカ。着いたわ。ここがコーネル様の指令室よ」
「さぁ、見せてもらおうじゃない。お姉さまのご主人様を」
――ご主人様
なるほど、リリカにとってはそう言う風に将軍を見ている訳か。私とは全く違うし納得した。つまりリリカは独り立ちしていないんだわ。
私はそう思いながらも、指令室の質素な扉をノックした。
* * *
「ようこそエレキス基地へ。てっきり文書が届くのだと思っていたよ。まさか噂の”勝利の女神”がここまで来るなんてね」
「私達の部隊は本部で作戦準備中なので、幸い時間はありましたの。それにお姉さまとレイバック家の方にも会いたかったですしね」
そう言いながらリリカはニヤニヤしながら私とコーネル様を交互に見ている。明らかに好奇の、いや見下している表情だ。
「ふぅん。副官だったら作戦準備中はむしろ忙しい筈なんだけど?」
「作業服を着て汗水流してるお姉さまと一緒にしないでください。私は通常こうやって交渉事や打ち合わせに参加するのが務めなんです」
なるほど、それは正論だ。リリカはそっちの方が遥かに得意だし、部隊の広報や宣伝担当としても十分だ。ユーバァ将軍も、この娘が軍人として使えないのを理解している。
だから「勝利の女神」と言う抽象的なキャラクターを作ったのだろう。将軍の苦労も垣間見えるわ。
「それで、ここまで来た理由は何かな? まさか僕と姉の顔を見にきただけではないよね」
「もちろんです。噂はお聞きになっているでしょう?」
リリカは装飾された一通の手紙を取り出してコーネル様の元に差し出した。
「ユーバァ・ド・ルーズバグータ様からの正式な派遣要請書ですわ」
「……なるほど。作戦本部ではなく個人名での正式な要請書、ねぇ」
コーネル様は苦笑いしながら、リリカの手紙を受け取り内容を確認するが、読み進めていく毎にその表情が険しくなっていく。
「……コーネル様。一体この文書には何と」
私はその表情を見て思わず訪ねてしまうがコーネル様は何も答えない。その文書を私に渡して私もその内容を確認する。
「……えっ? これって」
その文書にはこう書かれていた。
――『施設警備隊を残し、戦闘員は総員参加すべし』
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