第14話 妹、来襲!・2
まさかエレキス基地の総動員までさせるなんて……
この内容に驚く私の隣で、コーネル様は今までとは違う真剣な表情で見せている。
「リリカ・ル・ファンネリア殿、この要請書について伺ってもよろしいか?」
「ええ。私に答えられる事でしたら」
そう言いながら、リリカは微かに戸惑った表情を見せる。もしかしたらこの文章をちゃんと読んでもいないのかも?
「それでは早速。ここには、エレキス基地総動員の要請が書かれている。つまりここを放棄しろとでも?」
「放棄とは一言も書いておりません。『施設警備隊を残し、戦闘員は総員出撃すべし』というのが読めませんか?」
「警備隊とは準軍事組織。いわば建物やその周辺を警備するもので、敵軍への対応までは想定されていない。それくらいは理解して頂きたい」
「ここ数年、ここで本格的な戦闘は無かったと聞いています!」
ここまで聞いて私は呆れ、コーネル様は首を振りながら、小声で呟く。
「リリカ殿は10歩譲って仕方ないとしても、ユーバァ将軍がそこまで無知だったとはね」
「……いま、何とおっしゃいました?」
「いや、何にも? いずれにせよ、先日総司令官からの通達がユーバァ将軍宛にも届いている筈だけどね。エレキス基地は重要拠点につき必要に応じて人員や物資の強化を行う、と」
「通達文……」
「そして、その権限は僕が握っているんだよ?」
そう言いながら、その机から通達文を取り出しリリカに手渡す。リリカはそれを受け取り内容と、総司令官のサインを確認する。
いくらユーバァ将軍といえども、総司令官のサインが入っている通達文を無視する事は出来ない。総動員なんてもってのほかだ。
この通達は、私が軍令本部に行った時にコーネル様が書いていた要望書によるものだ。何かあった時の保険だと言っていたけど、きっとこの事態も見越していたのだろう。
「……つまり、あなたはルーズバグータ家の要請を拒否するという事ですか? レイバック家ごときが!」
「リリカっ! あなたは将軍に向かってなんて事を……!」
あまりもの非礼に私は思わず声を荒らげる。しかしコーネル様はこちらを向いてそれを制すると、リリカの方へ向き直して言った。
「ルーズバクーダ家、いやユーバァ将軍の要請自体を拒否するつもりはないよ。しかし、動員するのは部隊の半分。更にそれは補充兵が到着してからだ」
「…………」
リリカは私達から目線をそらして黙り込む。どうやら判断に悩んでいるようだ。
きっと、今まではユーバァ将軍の権威をいい事に要求を突き付けていたのだろう。しかし、ここは軍隊であり、貴族社会とは違う事をリリカも知るべきだ。
「……わかりました。ユーバァ様にはそのようにお伝えしましょう」
そう言いながらもその瞳には怒りのようなモノが見える。この表情はきっと何か言ってくる奴だ。
「……しかし! この参加する半数の中にコーネル将軍も参加されるのでしょうね」
「ああ、もちろん。僕が参戦しないとリリカ殿の立場もあるだろうしね」
その言葉に嫌味、いや悪意を感じたのだろう。リリカの表情が一段と険しくなる。
「そして、もちろんお姉さまも随行しますよね?」
「それはコーネル様次第ね。基地の防衛を命じられたらここに残るわ」
「そ、そんな事……!」
リリカは焦るような表情を見せる。てっきり私が来ない方が嬉しいのだろうと思ってた。
「いや。セラも僕に同行してもらうよ。セラは僕にとって”勝利の女神”だからね」
そう言いながらコーネル様は私を見てニコっと笑う。私は思わずコーネル様の方を見たのでリリカの反応はわからない。
「フ、フンっ! それならよろしいですわ。戦場で私達の実力をあなた達に見せつけてやりますわ! そして私達に逆らえなくしてやるんだから!」
なるほど。どうやらリリカ達は私達に対して実力や権威を誇示したいのね。それくらいなら別に構わないけど……
私はあの悪夢のような戦闘の光景を思い出していた。
「これで私の用件は済みました。こんなみすぼらしい所に長時間の滞在はごめんですわ。それでは精々頑張る事ですね。アッハッハ……えっ!?」
私は部屋から出ようとするリリカの腕を掴む。
「リリカ。ちょっと来なさい!」
「な、何よお姉さま。離して! 離してったらっ!」
リリカの抵抗を無視して私の部屋に連れ込んだ。途中からは諦めたように私についてきた感じもする。
* * *
「……で、なによ」
「この際だから言っておくわ。リリカ、悪い事は言わない。今回の作戦には参加しないで」
おそらく予想外の発言だったのだろう。一瞬呆気にとられた表情を見せるが、すぐに元の調子に戻る。
「一体いきなり何をおっしゃるのかした? 前みたいに私の大活躍を見るのがそんなに辛いのですか? アハッ!」
「違う! 今度の要塞攻略戦は今までのようにはいかないわ。単純に物量や装備で押し切って勝てる戦いじゃないの」
「……それで?」
「正直、今回の戦いで私もリリカもどうなるかわからない。最悪死ぬことだって普通に考えられる。だから、リリカにはそのまま家に帰ってほしい」
「……また、姉さんはそんなふざけた事を言って!」
「リリカ……?」
「いつも姉さんは私を見下して! バカにして! 私は何も出来ないとお思いですか!?」
「違う! 私はそんな事言ってない!」
「……お母さんもこの前、姉さんと同じことを言っていたわ。リリカは戦場よりも後方で活動した方がいい。お姉さんとは違うのだからって」
そう小声で言いながら、リリカは下を向き、小さな肩が小刻みに震えている。
「リリカ……」
「私達は、いえ私は絶対負けない! 敵にも、そしてお姉さまやレイバック家のあの人にも!!」
そう言ってリリカは私の部屋から飛び出した。追いかけようとしたけど、付き添いの人達に阻まれる。そして、今のリリカにかける言葉を私は知らなかった。
こうして、妹は馬車に乗ってすぐ出発してしまった。
「リリカ。あなたは……」
去っていく馬車を見ながら物思いにふける私の横に、少年がやってきて私の手をゆっくり握る。
「……セラ姉さん。妹さん帰ってしまいましたか?」
「そうね。行っちゃったわ」
「あの人、顔はセラ姉さんと似てるけど、性格は全然違いましたね。思わず驚いてしまいました」
「……そうね」
「でも、あの人、凄く寂しそうでした。強がっているというか……」
「…………」
――今の私は、そのラオ君の言葉に答える事は出来なかった。
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