第29話 セラ・デ・ファンネリアとして・1
私はアドラーさんと別れた後、高台の横に移動した。
そこから広場の方を確認したら、すでに全員が整列している。出陣式の準備は完了しているようだ。
そして同じように甲冑をまとうコーネル様が先に到着していた。
「コーネル様……」
「……うんっ! やっぱり似合ってるね。良かった」
「ありがとうございます。コーネル様の甲冑姿も初めてで少し驚いちゃいました」
「そうだね。僕は肉弾戦は門外漢だし、この姿はちょっと似合わないね。でも、少しは示しをつけないといけないから」
本人はそう言っているけど、そこまで自嘲する程ではないと思う。
「いえ、そんな事はないと思います。見慣れてないだけですよ」
「うん。ありがとう」
実際、正式な軍服は結構見ているけど、甲冑姿を見る機会は今まで無かった。
それはエレキス基地が抑止力として機能していた証拠でもあったから、それを誇らしいとさえ思っていた。そういう意味では少し残念だけ。
でも。改めてコーネル様の甲冑を見ると私と同じくらいの軽装鎧で、装飾もそこまで多くは無い。
武人系の将軍ならもっと重装備にしているし、ユーバァ将軍のような貴族系なら派手な装飾が施されて実戦を考慮されていない儀礼的な甲冑になる。
そう考えたら将軍としてはかなり珍しいタイプだろう。
でも、王族軍人らしからぬ質素さがコーネル様らしいとも思えて嬉しかった。
* * *
そして、エレキス部隊の出陣式が始まった。
それは、あくまで形式的なモノではあるけれど、将軍の意思や意図を改めて兵隊に向けて示す大切な事だ。
「わかってるなお前等! ここから先は訓練じゃない。オレ達は命がけの戦場に向かうんだ! モードを切り替えろよ!」
『はいっ!』
アドラーさんが兵士達に向かって発破をかけている声が聞こえてくる。
それを後ろで聞いてる私達も気が引き締まる。これは私達には出来ない事だ。やっぱり来てもらって良かったと思った。
「以上! このまま将軍が来るまで待て!」
『はいっ!』
その言葉を最後に広場が静寂に包まれた。
アドラーさんの統率力はやはり高い。いや、全ての能力が高い。
後方担当のエキスパートで統率力も高い。肉弾戦も含めたらエレキス部隊では総合力1番ではないだろうか。
そう考えていると、コーネル様が優しく声をかけてきた。
「さて、行こうか。皆が僕達を待ってるよ」
「はい。一緒に行きましょう」
「うん。行こう。二人で」
私達は高台に向かって歩き始める。
少し前では想像出来なかった世界線にシフトしている。これから私はどうなってしまうのだろうか。
そして私達が姿を見せた時、広場の雰囲気が変わった。
ざわ……ざわ……!
その理由はわかっている。
将軍が出陣式で号令を出す時は一人で行うのが通例。しかし、その横にもう一人いて、しかも女性が甲冑を着ているのだ。
これはどう考えても副官の範疇を超えている。いくら将軍の裁量が極めて大きいといっても限度がある。
正直、皆が受け入れてくれるかわからない。しかし私はコーネル様を信じてついていく事を決めたのだ。だから大丈夫。私の隣にはあの日の男の子がいるのだから。
* * *
「時は来た! 我らエレキス部隊はこれからジェノン要塞に向けて進軍する!」
『うおおおおおおおお!』
コーネル様は少し語った後に出陣の宣言をした。そして皆は大きな掛け声で答える。
この他部隊と比べ物にならない高い士気。これこそエレキス部隊なんだ。
「我々の主任務は機動力を駆使しての敵陣営の混乱と誘導! 戦局によって味方の援護も必要だ! 高度な柔軟性を維持しつつ、臨機応変に対処する事になるだろう!」
私達は3つの攻撃部隊とは違い、明確な攻撃目標を設定していない。そもそも絶対的な戦力が違うからまともに戦ったらひとたまりもない。
だから私達は機動力に特化させて”遊撃隊”のポジションを取った。どこかの部隊に編入されて自由度が落ちるのを嫌ったのだ。
特にユーバァ将軍の指揮系統に入るのはあらゆる意味で危険で、それだけは避けたかった。
「これは困難な任務だ! しかし、今までの訓練と皆の高い能力があれば十分可能だと確信している!」
そう言いながらコーネル様は私の方をチラッと見た。僅かな時間だけど、その瞳は私に何かを伝えていた。
「皆の奮励努力を無駄にしない為にも、僕は最善の戦術を尽くす事を約束する! だから、皆は僕達の指揮に迅速に対応してほしい!」
――僕達。その言葉に兵達は反応する。当然皆の視線は私に向けられる。
コーネル様はしばしその反応を確認して、宣言するように高らかに言う。
「今回、分隊の指揮をセラ殿に執ってもらう事にした!」
『なんだって!?』
『セラ様が!?』
『うおおおおおお!』
コーネル様からの突然の宣言で場が騒めく。無理もない。
分隊行動を想定した訓練は行っているものの、それはアドラーさんが現場の中継係となってコーネル様の指示で動く事になっていたからだ。
そういう私自身、分隊を指揮する件は今初めて知らされた。
いつものコーネル様のサプライズ。しかし特段驚きはない。ファンネリア家の剣を渡されて、この甲冑をまとった時点で予想出来ている。
いや、コーネル様とアドラーさんの真剣な表情を見たら気づかない筈がない。
今、私がここにいる事、ここにいる意味。それは私が守り人として、セラ・デ・ファンネリアとしてすべき事は一つだ。
私は自発的に一歩踏み出して、コーネル様の真横に並ぶ。
それを横目で見たコーネル様は、嬉しそうな顔を見せながら一歩後ろに下がる。
目の前には無数の兵隊が並び、その視線が私に集中する。
おそらく目の前に広がる光景は女性軍人として初の快挙だろう。
ざわついていた場が静かになる。一体どんな事を言うのだろうかと、皆が私の発言を待っている。
予定外の流れだとしても、私が言いたい事、言うべき事は決まっている。
――そう。私は守り人なのだから。
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