第30話 セラ・デ・ファンネリアとして・2
「皆さん。聞いてください!」
私はここにいる人全員の顔を見るかのように、ゆっくり周りを見渡す。皆の表情を見る限り、否定的な反応ではなさそうだ。安心して喋る事が出来る。
「私には夢がありました。この手でいつの日かこの長く続いた戦争を終わらせたい。と」
「しかし、その夢を叶える為には大きな難関がありました。それは、私が女である事です」
生まれた時点で運命は決まっていた。
わかりきっていた事でも、改めて言葉にすると色々と心に来るものがある。
「私が男だったら。強靭な身体だったら。と思い知らされた事も数知れずあります」
少しずつ場の雰囲気が変わっていく。何かを言いたいような表情をしている人も何人かいるようだ。
「それでも私は、女だとしても出来る事を続けていこうと、一生懸命頑張ってきました。その結果が副官という地位です」
「……」
「将軍直属の副官。それは正規の流れでは到達できない女性の最高位です。そこまで到達出来た事は十分誇るべき事だと思っています」
「だから、私はこれから副官として将軍の元で最後まで頑張っていこう。と思っていました」
「……」
「しかし、コーネル様やエレキス部隊の皆さんと共に過ごして、この考えは違うのではないか。と思うようになっていきました」
そう。私を変えてくれたのはここにいる皆だ。基地に残っている皆だ。
「女だから、正規の軍人ではないからというのは関係ない。そういう枠を破って理想を実現していくべきだ。その事を皆さんが教え、コーネル様が私の背中を押してくれました」
「……!」
「そして決心しました! 私は皆さんと一緒に前線で戦います!」
『……うおおおおお!!』
その私の宣言に皆が歓声で答えてくれる。突然の告知にも構わず、私を受け入れてくれる。その事がとても嬉しい。
「ありがとうございます! その声に、期待に答えられるようにコーネル様と共に最善を尽くします!」
「私にとってこの戦いは最初の一歩でしかありません。私はここに誓います。ファンネリアとして。守り人として。このファイスが、いえ、世界が平和になるまで戦いつづけると!」
私は腰にあるファンネリア家の剣を抜いて空へ掲げる。その剣身が太陽の光を受けて神々しく輝く。
『セラ様! セラ様!』
『これはヤマン様の再来だ!』
『ここから伝説が始まるんだ!』
『うおおおおおお!!』
歓声は更に大きくなっていく。
予想以上の反響に戸惑いを感じつつも、それ皆に見せる訳にはいかない。
これは理想の私になる為、そして人の上に立つ者の責務だと思ったから。
「そして、戦いに向かう前にセラ・デ・ファンネリアとして皆さんに厳命します!」
『……!?』
私は一番伝えたい事を伝える為に口調を強くする。
その突然の変化に皆が反応する。僅かに緊張感が張り詰める。
「皆さんはこんな所で死んではいけません! この不毛な戦いで死ぬのを私は許しません!」
「……!」
「皆さんを家族や友人、恋人の元へ帰す事が私の責務であり、一番の誇りなのです!」
『セラ様!』
『ファンネリア様!』
「ですから、どんな苦境があろうとも諦めずに最後まで生き延びる事。それを皆さんに厳命します!」
『うおおおおおおおおお!』
『おおおおおおおお!』
『セーラ! セーラ! セーラ!』
私の演説で広場の盛り上がりは最高潮に達しようとしていた。
なら、次に言うべき言葉は決まっている。しかし、本来それはコーネル様が、将軍が言うべき言葉だ。
「……」
私は一瞬だけ後を向き、コーネル様の反応を確認する。
コーネル様は私に対して明確な答えを示さない。しかし、その表情だけで全てが伝わってくる。
それは、まるで我が子の晴れ舞台を見るかの様な喜びと安堵の表情。声には出さなくともコーネル様が心の中で言っている事がわかる。
――僕はこの日が来る事をずっと待っていたんだよ。そして、その言葉はセラが言うべきだ。僕ではないよ。
きっとこんな感じだ。
私は心の中でお礼を言いながら僅かに表情を緩めると、コーネル様は同じく微笑む。
私達にはこの僅かな時間で充分だった。そうでなければ即席の分隊が機能する筈がない。そのシンクロ感は模擬戦術戦で最初に気づいた事で、エレキス基地での時間がそれを更に深めていった。
もう迷わない。ここから私の新しい一歩が始まるのだから。
私はその決意を胸にしながら高らかに宣言をした。
「それでは行きましょう! ジェノン要塞へ!」
『うおおおおおおおおお!』
『おおおおおおおお!』
『セーラ! セーラ! セーラ!』
その熱狂的な歓声を受けて、私は初めての感覚に包まれた。言いようのない高揚感と両肩にのしかかる重責。まさかここまでとは思わなかった。
私が言った事は出陣前に言うべき事では無い。むしろ逆だ。
普通なら「命を賭してでもこの戦いに勝たないといけない!」と言うだろうし、ユーバァ将軍なら更に強い事を言う。
そして、兵に「生きろ!」と命じながらも、時には非情の判断をしないといけないという矛盾。私は何て事を言ってしまったのだろうか。
そして、私達は出陣を開始する。もう後戻りは出来ない。
「凄い演説だったね。やっぱりセラは僕なんかより遥かに良い将軍になれるよ」
そう言いながらコーネル様は私の肩に手を置いてくる。その手はとても優しくて、少しずつ緊張感が解けていく。
「コーネル様……すみません。私、勝手に変な事を口走ってしまいました」
「でも、それがセラの一番言いたい事だったんだよね」
「はい」
私はその問いに即座で答える。
「なら、それで良いんだよ。それに、兵士達はセラの心に触れてとても嬉しかったと思うよ」
「そうだったら良いんですが」
「うん。たとえこの戦いで死んだとしても、誰もセラに対して恨まないよ」
「……そんな事言われたら、困ります」
その言葉を聞いたコーネル様は、私に厳しい表情を向ける。
「それが将軍の覚悟というものだよ」
「……!」
いつもよりトーンの低い迫力のある声が、私を奮い立たせる。
そうだ。私はこれから強くならないといけない。現実を知った上で理想を追わないと意味がないのだから。
「大丈夫。僕とセラなら全て上手くいくから!」
コーネル様は元の穏やかな表情で明るく言う。両方とも本当のコーネル様だ。そして、私もそうならないといけない。良い将軍になる為に。
「はいっ! 私達二人で頑張りましょう!」
――そして、私達はこの街を後にした。目指すはジェノン要塞!
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