第28話 基地の皆からのプレゼント
「さぁ、セラ。もう行こうか」
「……そうですねっ!」
私は歩きながら、わざとらしく拗ねた表情を見せる。
もちろん教えてくれた事自体はとても嬉しい。しかしもう少しタイミングを考えて欲しかったのも本当だ。ちょっとくらい拗ねてもよいと思う。
出陣式の直前に言われたら余韻に浸る時間なんてある訳無いのだから。
「はははっ。ごめんごめん。お詫びというか、もう一つセラにプレゼントがあるよ」
「プレゼント……?」
「これは僕からというより、エレキス基地に残ってるみんなからだよ。もっとも渡すタイミングは僕に委ねられてたんだけどね」
「基地の皆さんから、ですか?」
「うん。将軍である僕には何もなかったんだけどね。まったくセラには嫉妬しちゃうよ」
口ではそう言ってるけど、その表情はとても嬉しそうだ。
コーネル様はいつもそうだ。私が褒められると自分の事のように喜び、その逆の場合でも同じく怒ったり不機嫌になる。特にこの前の作戦会議の後がそうだった。
「僕は決めてたんだ。剣を渡す時に一緒に渡そうとね」
「……えっ?」
「うん。だからついてきて!」
「は、はいっ!」
そう言いながら、私達は部隊が集結する広場に向かう。
しかし、私達が来る予定はとうに過ぎている。時間厳守と言ってたし、アドラーさんに怒られそうだなぁ。
* * *
人が集まり始めている広場に到着したらすぐにアドラーさんが私達の所にやって来た。
「……やっと来たか。お前等が来るのが遅かったから、先に出来る事は全部やっておいたぞ」
「うそっ。もう……!」
あたりを見渡すと、確かに準備はあらかた終わってるように見える。
この人がアテラス本部長の一番弟子だという事を改めて実感した。
「ありがとうアドラー。で、悪いけどセラに渡す例の奴も準備してくれないかな。僕も準備をしないといけないしね」
「……!」
それを聞いたアドラーさんは一瞬だけ驚いた顔を見せた後、コーネル様の表情と剣の入った箱を見て全てを察したのだろう。柔らかい表情を見せた。
「……そうか。やっとか」
「うん。僕は決めたよ」
「コーネルが決めたのならそれでいいさ。セラ、悪いがちょっと来てくれ」
「は、はいっ!」
私はコーネル様と別れてアドラーさんの後をついていった。
* * *
「……セラ。コーネルから話は全部聞いたな?」
「はい。聞きました」
アドラーさんは歩きながら私に色々教えてくれた。
「あいつはずっと告白する事について悩んでいたよ。これでお前の運命を決まってしまうだろうとな。だからギリギリになってしまった」
「そうだったんですね……」
あそこでのコーネル様の質問と真剣な表情にはそんな意味があったのね。と納得した。
「そしてコーネルはお前と一緒に戦う事を決めて、お前はそれに応えた」
「はい」
「なら、オレがするべき事も決まったよ」
「……」
私達は無数にある装備品用荷馬車の一つにたどり着いた。
アドラーさんは荷馬車の中に入ると、大きめの箱を取り出して私の前でそれを開けた。
「セラ。これが基地の皆からのお前への贈り物だ」
「こ、これは甲冑……?」
「ああ。整備長が中心となって作り上げた”お前専用の”甲冑だ」
「私専用ですか……!?」
それはファイス国で初めての女性用の甲冑だった。
只でさえ戦場に立つ女性は珍しい。いるとしても補佐役や後方担当であり、甲冑を着るなんて事はない。仮にいるとしても小柄の男性用や子供用を使用していた。
「こんなモノまで準備してくれるなんて、とても嬉しいです!」
「そうか。これを着て出陣式に参加してもらうが、本当にいいな?」
「……へっ?」
「お前はこのタイミングでファンネリア家の剣とこの甲冑を受け取った。それがどういう意味かはわかるよな」
アドラーさんの瞳が語っている。この戦いで私がすべき事。そして、私の決意を確認している事を。
「……はいっ! お手伝いをお願いします!」
「ああ。わかった」
箱の中身を広げてみる。その甲冑は全身を覆わない軽装鎧で、軽さと動きやすさを重視した物だ。
敵騎士と一対一で戦う事は出来ないだろうけど、そもそも戦闘訓練は戦術学校で少し触っただけだ。だから取り回し優先な方が嬉しい。
更にコレは見栄えも意識されていて、ワイン色をベースとしたマントや装飾も施されている。つまり、これは実用的でありながらも身分や権威を示す甲冑だ。
この甲冑のコンセプトで、皆が私に何を期待しているかが伝わってくる。それがとても嬉しい。
「……アドラーさん」
「何だ?」
私は黙々と各パーツを装着しているアドラーさんに話しかける。
「この甲冑からエレキス基地の皆さんからの気持ちが伝わってきます。私、基地の皆さんが大好きです」
「そうか。それは良かった」
「だから、エレキス基地の皆さんの為にも全力で頑張りますね」
「……」
それを聞いてアドラーさんは手を止めて私の方を見る。
「違う。逆だ」
「えっ?」
予想外の言葉が返ってきて、思わず変な声を出してしまう。
「いいか。お前がオレ達の為に常に一生懸命なのは皆わかってる。だからこそ皆がお前を応援している事をわかってくれ」
「……」
「お前が今すべき事は自分の目標、自分の夢に向かって突き進む事だ。オレ達はそれを望んでるんだ」
「アドラーさん……」
「お前は知らないだろうが、お前がエレキス基地に来て、色んな人に影響を与えてるんだ。コーネルだけじゃない」
「そうなんですか……」
「ああ、そうだ。だからオレは、いやオレ達は全力でお前を守る。そしてお前の夢を叶えてやるよ」
目の前に立つ屈強な長身の男は、そう言って満面の笑顔を見せる。
その笑顔を見て、私は嬉しくなると同時に絶対的な安心を感じていた。
だって、私は十分に知っているからだ。
この人は出来ない事は口にしない、と。
「アドラーさん。ありがとうございます!」
「ああ。俺の分も頑張ってくれよ。コーネルと一緒に!」
「はいっ!」
私達はしっかりと握手を交わす。
この時、私の中の何かが変わった気がした。
――さあ、行こうか
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