ファイス国戦記 ~妹に全てを奪われたので、女性初の将軍になるべく溺愛将軍の下で頑張ります!~

TEKKON

第1話 追放と妹は突然に


「な、なんて事を……!」


 私、セラ・デ・ファンネリアは目の前で行われている惨劇にただただ唖然としていた


 これは第三独立攻撃部隊が結成されて半年後、5度目の実戦で起こった。

 隣国との合戦が始まって既に数刻。戦況は歩兵による肉弾戦に移行している。

 それなのに、右翼に向けて大規模な弓矢や投石機による攻撃が行われているのだ。


 双方合わせて5000もの兵に矢と石が降り注き、離れた本陣からでも右翼の混乱が見て取れる。

 この”友軍を巻き込んだ攻撃”は敵も味方も無い。もはやただの殺戮でしかない。


(右翼部隊の編成が新参兵や平民兵だらけだったのはこれが理由だったのね……!)


 気づくのが遅すぎた。もっとも、気づいたとしても私には出来る事はなかったが……


「よし。予定通り相手の陣形が崩れたぞ!」


 私の後ろでユーバァ将軍が歓喜の声を上げる。

 それに反応するように私の妹、リリカ・ル・ファンネリアが甘えるような声でささやく。


「ユーバァ様、まだまだですわ。とどめにもう一撃……!」


 次の瞬間、右翼の方角から巨大な炎が巻き起こる。その勢いはすさまじく、自然に発生する物では無かった。

 突如現れた爆炎は戦場の一部を飲み込んでいき、そこは地獄絵図と化している。


「これは強力な広域魔法……まさか魔法使いまで前線に投入したの!?」


 軍属の魔法使いはとても希少かつ大事な戦力で、通常司令部や重要な場所を守る切り札として配備されている。

 少なくとも軽々しく前線に投入するものではない。ありえない。


「ユーバァ様! それにリリカ! あなた達は何をしているのかわかっているのですか!?」


 私は我慢出来ず、思わず二人に向かって怒鳴るが、それを聞いたリリカは嘲ような目で睨みつける。


「お姉さま! 今回の戦いは私が専属の副官です。私達の戦いに口出しする事は許しません!」


「なっ……!」


「リリカ殿のいう通りだ! セラは黙って俺達の勝ち戦を見てろ!」


 そう言いながらユーバァ将軍は目で戦場を見ろと促した。


 言われた通り目線の先を追うと、山の向こうから、混乱しきった戦場に向かって、騎馬部隊が急勾配な不整地を一気に駆け下りていく。


「ちょっと待ってよ。いくらなんでもこの急斜面を……!」


 騎馬による奇襲自体は通常の戦法だが、その斜面が急すぎるのが大問題だ。馬への負担が大きすぎるし、実際に負傷したと思われる馬や落馬する兵も確認出来た。


(この二人はどこまで戦争をゲーム感覚で……!)


 騎馬部隊は右翼をそのまま突っ切って一気に敵の本陣に突っ込んでいく。右翼の壊滅的な被害に加えて本陣の側面をつかれた敵はパニックに陥った。


「ユーバァ様! 敵が敗走していきますわ!」

「そうだろう。俺の、いや俺達の作戦に間違いは無いのだ! ハッハッハッ!」


 そして、戦いは終わった。

 それはあまりにもデタラメで、目を覆いたくなる最低で最悪な戦いだった。


……

………


 ユーバァ将軍は秩序なく敗走する敵軍を見て愉悦に浸っている。目の前の惨劇に対して苦痛な表情を浮かべている私とは正反対だ。


 そして、その表情を見ていた将軍はこう言い捨てた。


「これで決まったな。セラ・デ・ファンネリア。現時刻をもって君を副官から解任する! もちろん婚約の話も破棄させてもらう!」


「……将軍、今何とおっしゃいましたか?」


「お姉さまはついに耳までおかしくなったのかしら? もうお姉さまは用済みという事ですわ。ねっ。ユーバァ様!」


 そう言ってリリカはユーバァ様の方に振り向き首に手を回す。戦場に不釣り合いなドレスと長くて綺麗な金髪がふわりと舞い、香水の匂いがここまで広がる。


「……そういう事か」


 代々受け継がれている”守り人”としての誇りを持たず、今まで軍事に欠片も興味を示さなかった妹が急にここにやって来て、口を合わせたかのように1日だけ将軍専属の副官として任命される。

 つまり将軍が欲しかったのは能力ではなく……


「お前はいつも俺の斬新な作戦に文句を言い、やっている事は裏方の兵站活動だけだ。これで副官として俺をサポートしていると言えるのか!」


「そうですわ! 副官とは常に将軍の傍にいて、気持ちよく指揮出来るように尽くすのが使命なんです!」


「その通り! そして、今回の戦いはリリカ殿の魔法使いの提案もあって、類を見ない短時間で勝利を収める事が出来た。副官として十分に期待に応えてくれたのだ」


 そう言いながらユーバァ将軍はリリカの頭を愛でるように撫でる。


「そして俺に尽くしてくれる。リリカ殿は嫁としても申し分ない」


 リリカはその言葉をニコニコと聞いている。もうすぐ大貴族の一員になれる事。そして私を見下している事が嬉しくてたまらないのだろう。

 

「お前が戦術学校で主席卒業したと聞いて副官として起用したが、ここまで無能で使えない女だとは思わなかったぞ! ガッカリだ!」


「それは違いますよね。あなたが求めたのは王様から授かった”守り人”としてのファンネリア家の血筋。更なる権威」


「貴様っ……!」


 それを聞いて将軍は私を厳しい目で睨みつける。


「それなら、必ずしも私じゃなくて良い。可愛いリリカを副官にして、慣習に従いそのまま結婚すれば目的を達成出来る。違いますか?」


「……言いたい事はそれだけか。副官の任命や権限、任務は将軍に委ねられている。お前をクビにするのも自由なのだぞ?」


「そうですね。もうあなたには愛想が尽き果てました」

「貴様ァ!」


「私はこの国と民を守る為に将軍の力になろうと精一杯努力しました。しかし、最後までそれを理解していただけなくて本当に残念です」


「残念でしたわね、お姉さま。あとは全部私にお任せくださいな。アハッ!」


 そう言ってリリカは将軍の傍に立って高らかに笑う。その勝ち誇った表情が全てを物語っていた。もうここには私の居場所はないのだと。


 代々継がれている”守り人”の長女としての今までの努力は何だったのか。

 ただこの国を守り、いつの日にか世界が平和になる事を願っていたのに……

 私はもう、唇を噛む事しか出来なかった。


「セラ。お前は大貴族である俺を怒らせた。その報いは受けてもらうぞ!」


「私は私の理想の為にこれからも精進するだけです。あなたには負けません!」


――そして私は、あの人との約束を守っていつの日か……


「わかった。お前はこの部隊から追放だ! 軍にすらいられないようにしてやる!」


こうして私は、この新設された第三独立攻撃部隊から追放された。

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