第3話 模擬戦術戦
「え、えと。いきなり何を言い出すんですか!?」
「君はここを首席で卒業したそうじゃないか。是非その腕前を僕に見せて欲しいんだ」
……イヤイヤイヤ! ツッコミところが多すぎる!
「えーと。コーネルさんでしたっけ? いきなりそんな事を言われても困ります!」
「大丈夫、ここの人に話を通して模擬戦場とスタッフの方は確保してるから」
「……はいっ!?」
思わず素っ頓狂な声を出してしまった。
勝手に話を進めている事もぞうだけど、そもそも卒業した人が模擬戦場をスタッフ込みで借りれるなんて聞いた事が無い。
「……あなたは一体何者なんですか?」
「んー。そうだなぁ。僕と戦ってくれたら教えてあげる。うん。そうしよう!」
うん。そうしよう! じゃないんですよ?
でも、久しぶりに模擬戦が出来るのは嬉しい。この男の正体も知りたいし、何より暇……いや、有効に時間を使えるチャンスだわ!
「……わかりました。本当に私に会う為にここまで来たようですし、お相手させていただきます」
「やった。そうこなくっちゃ! 早速みんなに準備してもらうよ!」
そう言って、彼は先に模擬戦場がある方へ行ってしまった。凄く嬉しそうだ。
「……」
一体何なんだろう。5分前には想像出来なかった事態になってしまった。
「ま、これはこれで悪くはないわね」
突然現れて勝手に色々決められたけれど、不思議と嫌悪感は感じられなかった。
それはあの人懐っこい笑顔と、わざわざ私に会いに来てくれたというのが嬉しかったのだ。
…
……
………
* * *
久しぶりに模擬戦場の中央室に入ると、結構な人数の生徒が集まっていた。
更に先生達も何人か来ていて正直少し戸惑っている。
「一体何事よもう。あの人ってそんなに有名人なの……?」
そう呟くと横から懐かしい男性の声が聞こえてきた。
「それはセラさんもですよ」
「先生! お久しぶりです」
「折角のお二人の模擬戦なので特別授業という形にしました。良い戦いを期待していますよ」
「は、はいっ!」
(……特別授業にしたという事は、あの人は相当強いという事か)
しかし私も在学中、模擬戦で負けた事はない。更に僅かな期間だけど実戦も経験してきた。負ける訳にはいかない。
「おっ。その表情だと準備はOKみたいだね。スタッフの準備も出来てるし、そろそろ始めようか」
コーネルさんはそう言って私に握手を求めてきた。
「……よろしくお願いします」
「うん。よろしくっ!」
私はいつものように軽く握手したが、彼の方はがっしりと手を握ってきた。
少し驚きながらも、今回の意気込みが伝わってきた、気がする。
――これはお遊びではないよ。
彼の大きく力強い手がそう言ってるようにすら思えた。
それなら、彼の意気込みに答えなくてはいけない。全力で戦おう。
そう思いながら、私は中央室の傍にある”指示室A”と書かれている部屋に向かった。
その時、ふと横を向くとコーネルさんが反対側の”指示室B”の前で手を振っている。まったく不思議な人だ。
うん。ちょっと楽しみになってきたわ。
* * *
この小さな指示室に入って扉を閉めた瞬間、ここは外界と遮断された「戦場」となる。
完全防音で、外と行き来出来る報告スタッフが唯一の情報源だ。
あるのは巨大なテーブルとそこに広げられている作戦用の専用地図。
地図の上に置く為の各ユニットの駒。そして今回の設定と目的が書かれているシナリオだ。
指示を出すプレイヤーと、駒などを動かしてくれる数人のアシスタントで構成されている。
パッとみるとボードゲームだか、この模擬戦術戦は大きく違う所がある。
それは交互に駒を動かすターン制ではなく、リアルタイムで戦況が動く事だ。
いわゆる「リアルタイムステラテジー」というモノで、双方の駒情報は報告スタッフにより中央室に伝えられ、そこにある大地図で統合される。
つまり、指令室では開始時点では敵情報は表示されていない。
索敵等で接敵した時にようやく報告スタッフにより伝えられるという流れだ。
敵の位置を早く突き止め、敵の意図を読みとり、如何に素早く的確に動くかが重要になる。
この模擬戦は机上演習ではあるが、出来る限り実戦に近いスタイルとなっている。
だからこそ私は負けられない。守り人としてまた戦場に戻る為に。
「さて、そろそろ開始ね。見せてもらいましょうか!」
――こうして、二人の模擬戦が始まった。
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