第17話 生きてるクリスタル?
それからアテラス本部長も加わり、ジェノン要塞攻略戦に向けての準備は一気に加速する。
アドラーさんの師匠だけあって、作業スピードは恐ろしく速い。
前にアドラーさんは「頼むから助っ人1ダース手配してくれ!」と言ってたけど、本部長1人いれば十分だと思えた。
しかし、私が一番驚いたのはスピードではない。本部長は私達に色々と小言を言いつつも、基本的には私達のやり方を尊重してくれた事だ。
てっきり1からキッチリやり直すと思っていたから、不思議に思ってこの前本部長に訪ねてみたら、返ってきた言葉はこれだ。
『時間も無いし、私は専属ではなく一時的に預かるだけですからね』
そして、その後の言葉がとても嬉しかった。
『それに、この基地はちゃんと機能しています。たとえ理屈に合わないとしても上手くいってる所を弄るのは愚かです。私はアドラー君とコーネル君、セラ君を認めています』
話す言葉はとても理論的なのに、状況に応じて対応を変える柔軟性も持ち合わせる。やはりこの人はファイス国1の頭脳だ。心からそう思える。
(……流石にファン整備長の魔改造コレクションにはブチ切れてたけど)
私は目の前で軽口を叩きながらやり取りをしている3人を見て微笑ましく、そして羨ましくなった。
* * *
順調に作業が進む中、アテラス本部長はファイルを確認してとある事に気づいた。
「コーネル君。このクリスタルの借用契約書というのは何ですか? 偉い人のサインが多数入っていますが」
「え、ええっと……」
コーネル様の表情が一気に曇ってゆく。どうやら非合法ギリギリの事をしてるようだ。
そもそも、こんな国境基地に国宝クラスの貴重品を持ち込む事がおかしい。指摘されて当然だと思える。
その時、最悪のタイミングで男の子の声がノック音と共に聞こえてきた。
「コーネル様。先日お借りしたクリスタルについて、お伝えしたい事があります」
そして、私達はラオ君の次の言葉に驚がくする事になる。
「このクリスタル。生きています」
「…………」
「…………」
「…………」
「……ほう」
何を言ってるのか理解出来ず、固まっている私達をよそに本部長は扉を開けてラオ君を部屋に入れた。
ラオ君が持っている高級な宝石箱を見ると、コーネル様の方を向いていつもより低い声で問いかける
「ミト国の紋章……コーネル君。そういう事ですか」
「……はい」
「まったく。こういう時だけ王族の地位を利用して。都合が良いというか、ずる賢いというか」
そう言いながら、本部長はラオ君の方を向き、笑顔を見せて説明を求めた。
「興味深い事を言いますね。ラオ君、そのクリスタルについて教えてもらえますか?」
「はいっ。アテラスさん!」
ラオ君はそう言うと宝石箱をそっと開けてクリスタルに優しく問いかける。
「ミトちゃんいいよね? ……うん。みんな優しい人だから大丈夫だよ」
「……ミトちゃん?」
「うん。ミト国から来たからミトちゃん。そう呼んでほしいって!」
「……」
その異様な状況に、私達は何も言う事が出来ない。
「で、ある日の夜中にですね……」
ラオ君の話をまとめるとこうだ。
ベッドの上でクリスタルを片手に歌を歌ってると、歌に合わせてクリスタルが微かに光りだした。
その反応を見てクリスタルに意思があると思い、それからコミュニケーションの方法を編み出した末に皆に伝える事にした。そして今に至る。
* * *
「……なるほどね。にわかには信じがたい話だけど、実は思い当たる節があってね」
「そうですね。ミト国から正式なアナウンスはありませんが、その話なら噂も本当だと思えます」
ただ驚いてるだけの私とは違い、コーネル様とアテラス本部長は驚きつつも、その話を受け入れようとしている。
「コーネル様、その思い当たる節って何ですか?」
「うん。ミト国のとある村から出てくるクリスタルは特殊な能力があるという噂がたくさんあるんだよ。不思議な光を放射したりね」
「夜を昼に変えたというトンデモなモノまでありました」
「……」
この手のひらくらいのクリスタルにそんな力があるとは思えない。しかし、ラオ君が嘘をつくとは思えない。少なくとも何かあるんだ。
「その噂を元に、国でも非公式で色々実験しましたが、特殊なマジックパワーらしきモノを帯びている。までしかわかりませんでした」
「僕はそれらの噂を聞いて一つの仮説を出したんだ。このクリスタルはマジックパワーらしきモノを産み出す。もしくは膨大なマジックパワーを蓄積して放出する事が出来る、とね」
「で、オレ達は特殊な魔法家系であるラオに調べてもらおうと思ったんだ。そして可能ならその力を利用出来ないかとも考えてた」
「もしかして軍事利用、ですか……?」
「そこまで期待はしていなかったけどね。でも、ここまで想定を超えると……」
「そんなモノを戦闘に持ち込むべきではありません。とても貴重な研究対象になります。コーネル君、わかっていますね?」
アテラス本部長はそう強めに進言する。当然だ。軍の上層部、いや国益にすら関わる事だから。
「で、ですね」
ずっと私達の話を聞いていたラオ君が口を挟んでくる。
「ミトちゃん、今回の作戦に参加したいそうです。ワタシのお手伝いがしたいと」
「……はいっ?」
まいったな。いよいよ話がおかしくなってきた。
「ラオ、お前はこいつの言ってる事わかるのか?」
「言葉は発しませんが、ワタシにはわかるんですよ。独特な魔法がそうさせているのかもしれません」
「うーん。意志を持っていて更に高い知能もある。本当に神様か上位の存在にすら思えてきたわ」
――神聖なクリスタルには神様が宿る
これはそのリムルの村に伝わる言い伝えらしいけど、少なくとも私達の知らない何かが存在しているという事、か。
「……ラオ。君はどうしたい?」
「ワタシはミトちゃんと一緒に行きたいです!」
ラオ君は即座にそう答える。そして、その言葉に反応するようにクリスタルが朧気に光りだした。
「ほ、本当に光りやがった……!」
「ミトちゃんもそう言っています。お願いします。二人で戦わせてください!」
『…………』
少しの時間が流れる。
「……私は知らなかった事にしましょう。これはレイバック家が勝手に行っている事です。軍は一切関知していません。ですからエレキス基地の皆さんの好きにしてください」
「先輩。ありがとうございます!」
その本部長の言葉を聞いて、コーネル様はラオ君に行った。
「わかった。ラオの言うとおりにするよ。だからこのクリスタル、いやミトともっと仲良くなってくれ」
「コーネル様……!」
「そして、ミトとどんな事が出来るか教えてほしい。僕は君達の力が必要だからね」
「はいっ! ワタシ、いやワタシ達にお任せください!」
そのラオ君の元気な声に反応するように、青いクリスタルがピカピカとはしゃぐように点滅する。
まったく。一体何なんだろうこの基地は。
そう思いながらも、抑えきれないワクワク感で表情を緩めてしまう。
うん。私にとって、ここは本当に素敵でかけがえのない家なんだなぁ。
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