第24話 作戦会議・その後
「……概ねこんな所かの。あとは相手の出方次第になるじゃろうて」
「うむ。これで俺の作戦が更に盤石なモノになった。礼を言う!」
先ほどの不機嫌さはどこへ行ったのだろう。ユーバァ将軍は満足げに笑う。言いたい事は山ほどあるものの、思ったより話が進んだのはとても良い事だ。
「……でも、私達の提案は一つも受け入れられなかったけどね」
私は小さな声で呟く。
いや、ユーバァ将軍に受け入れられなかったというより、無視されていたというのが正しいだろうか。いくら何でもここまで露骨に態度に出すとは思わなかった。
そして、リリカはその度に私達を見て見下すような表情で勝ち誇る。リリカ本人は一つも具体的な発言出来なかったのに、どうしてそこまで勝ち誇れるか不思議なくらいだ。
確かに他部隊と比べたら数は半分以下。しかし仮にも将軍が直接率いる部隊で、3000という数字は十分機能する。無下には出来ない筈なのに。
* * *
「さぁ、勝利の前祝いといこうか! 我が部隊自慢の料理と酒で英気を養ってくれ!」
ユーバァ将軍はそう高らかに言うと、扉が開かれてそこから豪勢な料理が運ばれてきた。
まだこんな事してるのね……。と私は首を横に振る。
もしかしたら、街の会議室を使わなかったのはこれが目的なのかもしれない。
自分が関わる事を全てセレモニー化させるのは、大貴族としての義務だと思っているのだろうか。
「まったく、オレにはわからない世界だな。わかりたくもないが」
「持ち帰って皆に分けたいけどそうもいかないだろうね。ちゃっちゃと食べて帰ろう」
「そうですね。食べずに帰ったら無駄なトラブル呼び込みそうですし」
料理が準備されていく中、招待されたのだろう街の偉い人や音楽隊も入ってきて完全に貴族の立食パーティーになってしまった。
第三部隊での副官時代も何度か参加させられてたけど、やはり居心地は悪い。屋敷での晩餐会や舞踏会とは違う異質さが受け入れられない。
「……この前のパーティーとは大違いね」
私はこの街に入る前日の野営パーティーを思い出していた。
あの夜はとても楽しくて、心も体も癒されて、最高なひと時だった。
「早く”お家”に帰りたいな」
私は部隊がいるであろう方角を向いてそう呟いた。
* * *
パーティーが進んでいく中、私達は少し離れた所で出てくる料理を食べていた。
「そろそろいいかな? もう少ししたら退席しようか」
「そうだな。もう十分だ」
「そうですね。会議も終わってますし長居は無用で……えっ?」
その時、今まで完全に無視していたユーバァ将軍が私達の方に近づいてきた。
「楽しまれていますかな? 王族随一の軍人、レイバック殿は」
そう皮肉を言いながら、私達を見て意味深な笑みを浮かべる。
「……なにか? ユーバァ殿」
「いや、コーネル殿の現状は聞いているよ。実力がありながらも辺境に飛ばされて自堕落な日々を過ごしていると」
「ほぅ。どこから聞いた噂か知らないけど、そいつはエレキス基地の重要性を知らないようだ。で、それと今回動員した事に関係があるのかな?」
「勿論だ。この戦いで活躍したら辺境から中央に戻れるかもしれないだろ? つまりこれは俺からの善意だ。ありがたく受け取るんだな」
その話を聞いたコーネル様は冷笑しながら答える。
「なるほど。これがユーバァ殿の好意ねぇ。僕としては放っていて欲しかったけど。そんなに過去最大の動員という肩書きが欲しかった?」
「……!」
その言葉に反応したユーバァ将軍は私達を睨みつける。
この人は相変わらず直情的で導火線が短い。大貴族という身分じゃなかったらどうなっていただろう。
「……ふん。まあいい。コーネル殿の戦いぶりを楽しみにしているよ。そこの口うるさい無能な小娘と共に俺の為に励んでくれよ」
それを聞いた瞬間、コーネル様の表情が明らかに変わる。今まで見た事がない顔に私は驚き、そして怖くなった。
「無能ねぇ。セラに対してそう言えるなんて信じられないよ。このセラがどれほど凄い人なのか全然わからなかったんだね。可哀想に」
「なんだと! この女は常に俺の作戦を邪魔をしてきたんだぞ! 俺がこの女にどれだけ足を引っ張られたか。思い出すだけで腹が立つ!」
「セラの進言を邪魔と言ってる時点で終わっている。だから味方に多大な犠牲を強いるんだ。それこそ僕は許せないね」
「忌み嫌われているレイバック家のくせに、大貴族であるこの俺にそんな口を叩くか!」
「ここは軍隊だ。血統なんて関係無いよ。いい加減その事を理解して欲しいね」
「ちょ、ちょっと待ってくださいっ!」
まいった。いきなり変な事になってしまった。
なるべく穏便に終わらせたかったのに、私のせいで場が荒れるのはごめんこうむりたい。
「どうかしましたか、ユーバァ様?」
最悪だ。このタイミングでリリカもやってくるなんて……
「リリカ。どうやらレイバック家の男は女を見る目が欠片も無いようだ。この無能女をとても高く評価するなぞ信じられんわ!」
この人は今、軍人でも副官でもなく”女”だと言った。それだけで色々お察し出来る。
「まあ、なんて可哀想なお方! でも仕方のない事かもしれません。忌み嫌われた家系で今まで良い出会いがなかったんですわ」
よりにもよってこの人をねぇ。と、言いながら私を見て嗤う。
「お姉さまもお姉さまですわ! ユーバァ様の凄さを理解出来ず自分勝手な事をして、追放されてしまうのですから。アハッ!」
「……はぁっ」
「お姉さま、なにかおっしゃったら如何です? それとも反論出来なくてだんまりですか。残念ですねぇ!」
「……」
そのリリカの挑発には乗らない。これ以上状況を悪くする気は無い。
私はただ目の前の妹を哀れに思うだけだ。貴族としては知らないけど、ユーバァという男は軍人としては決して将軍の器ではないのだから。
* * *
それからも、二人の将軍の言い争いとリリカの罵倒は止まらない。
パーティー会場の隅で不穏なムードが漂う中、コーネル様はユーバァ将軍と周りの人に向けてはっきりと言い放つ。
「僕からこれだけはハッキリ言っておくよ。皆はこの戦いでセラの本当の実力を知る事になる。楽しみにしててほしいね」
「なんだと!」
「なんというふざけた事を……!」
ユーバァ将軍とリリカは私の方を睨みつけて、戸惑っている私をよそにコーネル様は勝ち誇った表情を周りに見せつけている。
「……頃合いだな。もういいだろ。ほら、二人とも基地に戻るぞ!」
アドラーさんに引っ張られながら会議室を退出する事になるが、私の頭の中では同じ言葉が繰り返されていた。
――なんでコーネル様はここまで怒りを露わにしたんだろう。
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