測量業(測量編)

ついに測量現場での作業に携わることになった。

測量と聞くと、街中で見かけるあの光景が真っ先に思い浮かぶ。

大きなカメラのような器械を覗き込む人と、棒を持って歩く人の姿だ。

だが、この会社での測量はもっぱら山中で行われ、厳しい自然の中での作業が求められた。


野山に分け入り、林道を開設するための測量。

開設した林道を舗装をするための測量。

山腹崩壊した斜面を保護するための測量など目的は多岐にわたる。

いずれも山の奥深いところで作業は行われる。


今回の現場では、すでに開設されている林道の勾配を緩やかにするための測量が行われることになっていた。

その日は冬の寒さが肌を刺し、山全体が凍りついているようだった。

先輩が50mの巻尺をすべて出し、垂らしながら僕の前を歩いていく。

僕は、ポールと呼ばれる赤と白の2mの棒を持ち、少し離れてその後に続いた。


林道の下り勾配が急になるポイントから林道の脇にそれて、道横の斜面を這うように進む。

思った通り山が凍っていて、斜面を蹴っても足場を作ることが出来ず、何度も滑り落ちそうになった。

斜面とは言っているが、高所恐怖症の僕からしたら、そこはもう崖同然だった。

崖にたたずむ山羊やぎを思い浮かべながら、僕は呆然と立ち尽くしていた。


斜面を進む先輩の背中が遠くに見えた時、この仕事が自分に向いていないことを強く悟った。

大変申し訳ないが、作業を手伝うどころか、付いて行くだけで精一杯だった。


その後、別の現場にも同行させてもらうことがあった。

そこでは間伐のために伐採された木が無造作に捨てられていた。

もったいないと思ったが、その木々を運び出し、製材するにはコストがかかりすぎ、利益が出ない聞かされた。

何とかしてこの間伐材を有効活用できないものかと思ったが、僕にはそのための知識も、力も何もなかった。


やはり、僕にはこの仕事を続けることができなかった。

高い所へ行くたびに膝と足首が硬直し、まともに歩けなくなってしまう。

僕はそのことを正直に伝え、三度お世話になったこの測量会社を、また辞めることにした。


やり遂げたい気持ちはあったが、気持ちに身体が追いつかず、情けない現実を受け入れざるを得なかった。

だが同時に、僕には何ができるのか、何なら役に立てるのかを深く考えるきっかけにもなった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る