物流業

映画館のバイトを辞めたことを倉庫の社長に告げると、仕事の時間を増やす提案をしてくれた。


早出はやでをしてリーチリフトでピッキングするアイテムを並べたり、-22℃の冷凍倉庫でピッキングをする業務を増やしてくれた。


リーチリフトはフォークリフトの一種で、フォークの出し入れが可能な、立って乗るリフトだ。

機体は小型化され、狭い場所でも容易に旋回でき、とても小回りが利く。

リーチリフトでスピードを出し、コーナーを曲がるたびに遠心力に振られながら、しがみつくように乗り回すのが毎日の楽しみになっていた。


冷凍倉庫でのピッキングのために、分厚い防寒着を貸してもらった。

それでも体は芯まで冷え、末端冷え性の僕は、あまりの寒さに足の指が落ちたのではないかと錯覚するほどの痛みに襲われていた。

しかし、極寒の中で鼻呼吸をした際の、鼻腔内が凍てついていく感覚は何とも心地がよかった。


真夏には、冷凍倉庫と外界の温度差は60℃にもなる。

暑い外気も、芯まで冷えきった体には、すぐに届かず肌の上でぼやけていた。

僕はそれが馴染むように、ぐっと腕をさすりボクシングジムに向かった。


自律神経が乱れていたのだろう。

この頃はひどく寝苦しく、大動脈と腋窩えきか動脈に保冷剤を当て、体を冷やして何とか眠っていた。

エアコンが無かったからとはいえ、その状況は惨めで滑稽だ。


仕事もボクシングも何となく上手くいかなくなってきた頃、実家でも問題が起きてしまった。

僕が実家に戻っても解決する問題ではないが、両親との相談の結果、実家に帰ることになった。

それに伴って、ボクシングジムも移籍することにした。


実家の僕の部屋は、すっかり倉庫代わりになっており、荷物の置き場と化していた。

実家での僕の居場所は、もはや狭いベッドの上だけだった。

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