測量業(竹刈り編)

ブラジル人たちとの別れから二ヶ月が経った頃、以前お世話になった測量会社の社長から直接、携帯電話に連絡があった。

「竹を切りたいから、ちょっと手伝ってくれ」とのことだった。

仕事を探していた僕に、断る理由はなかった。


朝は事務所に出勤し、会社の車で竹やぶへと向かった。

着いた現場は、見渡す限り竹に覆われた斜面だった。

一帯を覆う竹やぶは、風が吹くたびに大きくしなり揺れていた。

「ちょっと手伝ってくれ」というレベルではない。

いろいろ言いたいこともあったが、とりあえず竹を切り始めようと思った。


竹の根は浅く広がり、地面にしっかりと食い込むことがほとんどない。

斜面に生える根の浅い竹やぶは、地滑りの原因になる。

特に雨が降り、土壌が緩んだ際には、竹やぶの下の土が滑りやすくなり、その危険性は増す。

現場でも、すでに地滑りを起こしている箇所があり、その整理には手間がかかった。


道具は、のこぎりとなただけが貸し出された。

のこぎりは、円筒形の素材を切るために設計された替刃式のパイプソーを使っていた。

鉈は、わずかな角度の違いで切れ味が左右される。

少しでも角度が狂えば、竹の枝さえ切ることはできない。

正確な切り口を得るには、繊細な感覚が求められる。


地表面から十センチほどの高さで竹を切るが、密集していて簡単には倒れない。

安定した足場を確認し、切り口を持ち上げて引き倒す。

倒れた竹が、地面が揺れるような錯覚を覚える。


倒した竹を、三~四メートルほどの長さに切りそろえていく。

その後、竹の枝や葉を鉈で払い、一ヶ所にまとめることで、やがて竹林は整然と片付いていった。


朝から夕方まで、とにかく竹を切りまくっていた。

直径十センチほどの竹なら、のこぎりを三回引けば倒せるようになった。

鉈の扱いにも慣れ、あらゆる体勢から枝を切り払えるほどの熟練の技が身についていた。


竹やぶを切り終えると、それまで隠れていた富士山が大きく姿を現していた。

今までにない明確な達成感が、そこにはあった。


有終の美を感じながら立ち去ろうとしたその時、社長から「測量の現場も手伝ってよ」と依頼を受けた。

この会社に入って三度目、いよいよ測量現場に赴くこととなった。

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